この記事でわかること
・保育における「環境」の考え方
・なぜ環境を変えると子どもの姿が変わるのか
・子どもの主体性を育てる環境づくり
・保育士が環境構成で意識したいポイント
・園長や主任が保育環境を見るときの視点
子どもを変えようとしていませんか?
保育現場では、こんな悩みを聞くことがあります。
「子どもが話を聞いてくれません」
「遊びがなかなか広がりません」
「もっと落ち着いて活動してほしいです」
もちろん、保育士は子どもの成長を願って関わっています。
だからこそ、
「どう声を掛けたら伝わるだろう」
「どうしたらできるようになるだろう」
と考えます。
ただ、園長としてさまざまなクラスを見てきた中で、私は一つ大切にしていることがあります。
それは、
「子どもの姿を変えようとする前に、環境を見てみる」
ということです。
例えば、片付けがうまくできない子どもがいたとします。
何度も、
「片付けようね」
と声を掛けることもできます。
しかし、その前に、
玩具を戻す場所は分かりやすいだろうか。
子どもが自分で片付けられる量だろうか。
遊びを終える見通しを持てているだろうか。
と環境を見直してみます。
すると、子どもの問題だと思っていたことが、実は環境を変えることで解決する場合があります。
保育では、
「子どもに何をさせるか」
だけではなく、
「子どもが自然とやってみたくなる環境をどうつくるか」
という視点がとても大切です。
タイトルでは「保育は環境で8割決まる?」としていますが、もちろん保育を単純な割合で表せるものではありません。
ただ、それくらい環境が子どもの姿に与える影響は大きいと、私は日々の保育を見ながら感じています。
保育における「環境」とは?
「環境」と聞くと、
保育室の広さ。
玩具。
机や椅子。
絵本。
壁面。
などを思い浮かべる方も多いと思います。
もちろん、これらも環境です。
ただ、保育における環境は、物や空間だけではありません。
子どもが毎日過ごす中で関わる「人」や「時間」も、大切な環境の一つです。
大きく分けると、次のように考えることができます。
① 物的環境
玩具や教材、家具、保育室など、子どもの周りにある物や空間です。
例えば、
・玩具の種類
・玩具の配置
・絵本の置き方
・机や棚の高さ
・遊ぶスペース
・製作に使える素材
・自然に触れられる環境
などがあります。
同じ玩具があっても、棚の奥にしまわれているのか、子どもが自由に手に取れる場所にあるのかで、遊び方は変わります。
「何を置くか」だけでなく、
「子どもからどう見えているか」
まで考えることが大切です。
② 人的環境
保育者や友達など、子どもの周りにいる人と、その人たちとの関係によってつくられる環境です。
例えば、
・保育者の声掛け
・子どもとの信頼関係
・友達との関わり
・職員同士の連携
・困ったときに助けてもらえる安心感
などがあります。
どれだけ物的環境が整っていても、子どもが安心して過ごせなければ、自分から遊んだり挑戦したりすることは難しくなります。
人的環境については、「保育における人的環境とは?|具体例でわかる保育者の役割と子ども主体の環境づくり」で詳しく紹介しています。
③ 時間的な環境
子どもがどのような時間の流れの中で生活しているかも重要です。
例えば、
・十分に遊び込める時間がある
・次の活動を見通せる
・急かされずに取り組める
・自分のペースで考えられる
・遊びを続けられる時間がある
といったことです。
どれだけ良い玩具を用意していても、
「もう終わりです」
「次に行きます」
と短い時間で次々と活動が変われば、子どもが遊び込むことは難しくなります。
環境を考えるときは、物、人、時間を一緒に見ることが大切です。
なぜ環境を変えると子どもの姿が変わるのか
子どもの行動は、その子自身の性格や発達だけで決まるものではありません。
置かれている環境によっても大きく変わります。
例えば自由遊びの時間。
人気のある玩具が一つしかない。
遊ぶ場所が狭い。
何をして遊んでよいか分かりにくい。
そうした環境では、玩具の取り合いやトラブルが増えることがあります。
そのとき、
「仲良く遊んで」
「貸してって言おうね」
と子どもに伝えることも必要かもしれません。
しかし、それだけではなく、
同じように遊べる素材を増やせないか。
遊ぶスペースを広げられないか。
別の遊びにも興味を持てる環境をつくれないか。
と考えてみます。
環境を少し変えるだけで、子どもの姿が変わることがあります。
だからこそ、
「この子はどうしてできないのだろう」
だけではなく、
「この行動が起こりやすい環境になっていないだろうか」
と考えることが大切です。
「できない子」ではなく「できる環境になっているか」
保育では、どうしても子どもの姿に目が向きます。
「落ち着きがない」
「集中できない」
「片付けられない」
「話を聞けない」
もちろん、子どもの発達や個性を見ることは必要です。
ただ、その前に、
「できる環境になっているだろうか」
という視点も持ちたいと思います。
例えば片付けです。
子どもがなかなか片付けないとき、
「片付けて」
と何度も声を掛けることがあります。
しかし、
・玩具を戻す場所が分かりにくい
・収納方法が複雑
・玩具の量が多すぎる
・子どもの手が届きにくい
・遊びの終わりを突然伝えている
といった環境の問題があるかもしれません。
そこで、
写真やイラストで戻す場所を示す。
収納を簡単にする。
玩具の量を調整する。
片付けの少し前に知らせる。
と環境を変えてみる。
それだけで、子どもが自分から動きやすくなることがあります。
子どもへの声掛けを増やす前に、環境を一つ変えてみる。
これは保育の中で使いやすい視点だと思います。
子どもの主体性を育てる環境づくり5つのポイント
子ども主体の保育では、
「自由にさせること」
が目的ではありません。
子ども自身が、
「やってみたい」
「これを選びたい」
「こうしたらどうなるだろう」
と考えながら行動できることが大切です。
そのために意識したい環境づくりを5つ紹介します。
① 子どもが選べる環境をつくる
主体性を育てるためには、子ども自身が選ぶ経験が必要です。
例えば、
「今日は何で遊ぶ?」
「どの色を使いたい?」
「どこから作ってみる?」
と、自分で選べる場面をつくります。
大人がすべて決めてしまえば、子どもは指示を待つようになります。
一方で、
「自分で選んでいい」
という経験を積むことで、子どもは少しずつ自分で考えるようになります。
もちろん、何でも自由にする必要はありません。
安全や生活の流れなど、大人が決めなければならないこともあります。
その中でも、
「ここは子どもが選べる」
という部分を少しずつ増やしていくことが大切です。
② 子どもが自分で取り出せるようにする
子どもが、
「先生、これ取って」
と言わなければ遊べない環境では、どうしても大人を介する場面が増えます。
そこで、
子どもの目線にあるか。
手が届く高さになっているか。
何がどこにあるか分かるか。
自分で戻せるか。
という視点で環境を見ます。
子ども自身が、
見つける。
選ぶ。
取り出す。
使う。
戻す。
という一連の動きをできる環境にすることで、自分で行動できる場面が増えていきます。
③ 遊びが広がる素材を用意する
良い環境とは、玩具がたくさんある環境ではありません。
大切なのは、子どもの興味や発想が広がることです。
例えば、
積み木。
布。
箱。
廃材。
自然物。
紙。
テープ。
こうした素材は、使い方が一つに決まっていません。
箱が車になることもあります。
家になることもあります。
お店になることもあります。
子どもの発想によって遊び方が変わります。
保育者が完成した遊びをすべて用意するのではなく、
「ここから何が生まれるだろう」
という少し余白のある環境をつくることも大切です。
④ 保育者が答えを与えすぎない
環境づくりというと、物の配置ばかりに目が向きます。
しかし、保育者の関わり方も大切な環境です。
子どもが、
「どうしたらいい?」
と聞いてきたとき。
すぐに、
「こうしたらいいよ」
と答えることもできます。
ただ、
「どうしたらできそう?」
「何か使えそうなものはあるかな?」
「どうしてみたい?」
と返すことで、子ども自身が考える時間をつくることができます。
もちろん、困っている子どもにいつまでも考えさせればよいわけではありません。
必要なときには助けます。
大切なのは、大人が先回りして全部答えを出していないかということです。
保育者は、教える人であると同時に、
「子どもが考えられる環境をつくる人」
でもあります。
⑤ 安心して挑戦できる関係をつくる
どれだけ魅力的な玩具や素材があっても、子どもが安心していなければ主体的には動きにくくなります。
「失敗しても大丈夫」
「やってみたいと言っていい」
「困ったら助けてもらえる」
「自分の気持ちを聞いてもらえる」
という安心感が必要です。
その土台になるのが、保育者との信頼関係です。
子どもの主体性を育てる環境づくりは、物を整えることだけではありません。
人との関係まで含めて考えることが大切です。
子どもの姿を見て環境を変える
環境構成で大切なのは、一度つくった環境をそのままにしないことです。
子どもがどんな遊びをしているか。
何に興味を持っているか。
どこでトラブルが起きているか。
どこに人が集まっているか。
使われていない玩具はないか。
遊びがどこまで続いているか。
こうした子どもの姿を見ながら、環境を変えていきます。
例えば、最近虫に興味を持つ子どもが増えているなら、
虫の図鑑を置く。
虫を観察できる道具を用意する。
製作につながる素材を置く。
散歩先で虫を探してみる。
と環境を広げることができます。
つまり、
環境をつくる。
子どもの姿を見る。
環境を変える。
また子どもの姿を見る。
この繰り返しが環境構成です。
保育者が一方的に環境を用意するのではなく、子どもの姿から次の環境を考えることが、子ども主体の保育につながります。
園長・主任が見るべき保育環境のポイント
園長や主任が保育を見るとき、
「先生がきちんと動いているか」
だけを見てしまうことがあります。
しかし、環境を見るときに大切なのは、
「子どもがどのように過ごしているか」
です。
例えば、次のような視点で見てみます。
・子どもが自分で遊びを選べているか
・玩具や素材が発達や興味に合っているか
・子ども自身が物を取り出せるか
・十分に遊び込める時間があるか
・同じ場所でトラブルが繰り返されていないか
・保育者の指示を待つ時間が多くなっていないか
・子どもの興味に合わせて環境が変化しているか
・安心して失敗や挑戦ができる雰囲気があるか
そして、
「どうしてこの環境にしたの?」
と保育者に聞いてみます。
そのとき、
「この子たちが最近ここに興味を持っていて」
「この場所でトラブルが多かったので変えました」
「子どもたちが自分で使えるように置き方を変えました」
という話が出てくれば、子どもの姿を見ながら環境を考えていることが分かります。
環境構成を見るということは、部屋がきれいかどうかを確認することではありません。
「なぜ、この環境になっているのか」
を見ることだと思います。
保育士が意識したい「環境を見る視点」
子どもの行動に困ったとき、
「どう声を掛けよう」
と考えることはとても大切です。
ただ、その前に一度、
「なぜ、この行動が起きているのだろう」
と考えてみます。
そして、
環境に原因はないか。
物の配置を変えられないか。
時間の流れを変えられないか。
保育者の関わり方を変えられないか。
と振り返ります。
例えば、いつも同じ場所で子ども同士がぶつかるなら、
「走らないで」
と何度も伝えるだけでなく、
そもそも動線が狭くないか。
家具の配置を変えられないか。
そこで走りたくなる環境になっていないか。
と考えます。
子どもの姿は、環境からのメッセージでもあります。
「この子をどう変えるか」
だけではなく、
「この環境をどう変えれば、子どもが過ごしやすくなるか」
という視点を持つことで、保育の見え方は変わります。
環境づくりは一度完成したら終わりではない
保育室を年度初めに整えたら、それで一年間完成というわけではありません。
子どもは毎日成長します。
興味も変わります。
できることも増えていきます。
友達との関係も変わります。
だからこそ、環境も変わっていく必要があります。
4月に必要だった環境と、半年後に必要な環境が同じとは限りません。
昨日まで使っていなかったものに、突然興味を持つこともあります。
子どもの姿を見ながら、
「今、この環境でいいだろうか」
と考え続ける。
それが環境を通して行う保育の大切な部分だと思います。
まとめ|良い保育は「環境を見ること」から始まる
子どもの成長は、保育者の声掛けだけで決まるものではありません。
毎日過ごす空間。
そこにある玩具や素材。
友達との関係。
保育者との関わり。
一日の時間の流れ。
そのすべてが子どもの育ちに影響しています。
だからこそ保育では、
「どう教えるか」
だけではなく、
「どうすれば子どもが自分から動きたくなるだろう」
と環境を考えることが大切です。
子どもが自分で遊びを選べる。
自分で物を取り出せる。
十分に遊び込める。
試してみることができる。
失敗しても大丈夫だと思える。
そんな環境があることで、子どもの主体性は少しずつ育っていきます。
子どもの姿に困ったときほど、子どもだけを見るのではなく、周りの環境も見てみる。
「この子に何を言えばいいだろう」
の前に、
「この子が過ごしている環境はどうだろう」
と考えてみる。
そこに、保育を変えるヒントが見つかることがあります。
保育者の役割は、子どもを思い通りに動かすことではありません。
子どもが自ら動き、考え、育っていける環境をつくること。
それが、環境を大切にする保育の基本だと思います。

