「今日、研修か……」
「やることが残っているのに」
「正直、この研修にはあまり興味がないな」
園内研修や外部研修への参加が決まったとき、こんな気持ちになったことがある保育士さんもいるのではないでしょうか。
保育園で行われる研修は、必ずしも自分が「参加したい」と思って申し込むものばかりではありません。
園から参加を求められることもあれば、全職員が参加する園内研修もあります。
毎日の保育に加えて、記録や書類、行事の準備、保護者対応など、保育士の仕事はたくさんあります。
忙しいときほど、
「研修より、今やらなければいけない仕事を進めたい」
と思うこともあるでしょう。
私自身、研修をする側にも、受ける側にもなります。
だからこそ、どちらの気持ちもよくわかります。
研修をする側としては、せっかく時間をつくって参加してもらうのであれば、何か一つでも持ち帰ってほしい。
参加する側としても、同じ30分、60分を使うのであれば、自分の保育につながる時間にしたい。
そこで大切にしたいのが、研修の中にある「対話」です。
講師の話を聞くだけでは得られない気づきが、職員同士で話したほんの10分から生まれることがあります。
今回は、園内研修における対話やグループワーク、グループディスカッションが保育の学びにどのような意味を持つのか、園長として研修を行う立場、そして自分自身も研修を受ける立場から考えてみたいと思います。
園内研修は「話を聞くこと」だけが学びではない
研修というと、どんな場面を思い浮かべるでしょうか。
講師の話を聞く。
資料を読む。
動画を見る。
新しい知識や制度について学ぶ。
もちろん、どれも大切な研修です。
保育には、子どもの発達、安全管理、不適切保育、食物アレルギー、保護者対応など、正しい知識を身につけておかなければならないことがたくさんあります。
一方で、知識を「知っている」だけでは、実際の保育場面でうまく活用できないこともあります。
そこで大切になるのが、自分で考える時間です。
研修の途中で、
「隣の人と話してみてください」
「2~3人でこのケースについて考えてみましょう」
「自分の園だったらどうするか、グループで話し合ってみましょう」
といった時間が設けられることがあります。
Zoomなどを使ったオンライン研修でも、少人数のセッションやブレイクアウトルームで話す機会があります。
時間にすれば、たった5分や10分かもしれません。
でも私は、この短い時間にこそ、座学だけでは得られない学びがあると思っています。
対話することで「知ったこと」が「自分の保育」に変わる
例えば、「保育室の環境構成」をテーマにした園内研修をするとします。
研修の中で、
「子どもが自分で遊びを選べる環境をつくることが大切です」
という話を聞いたとします。
その内容を理解することは、それほど難しくありません。
でも、そこで一歩踏み込んで、
「では、自分たちの保育室はどうだろう?」
と考えてみると、研修の内容が急に身近になります。
「玩具の場所が子どもから見えにくいかもしれない」
「この棚の近くで、よく子ども同士がぶつかっているよね」
「落ち着いて一人で遊びたい子が過ごせる場所が少ないかも」
「このコーナーは最近あまり使われていないね」
自分たちの保育室を思い浮かべながら職員同士で話してみると、いろいろな意見が出てきます。
ここで初めて、研修で聞いた内容が「知識」から「自分たちの保育」へとつながっていきます。
研修で学んだことを、自分の園、自分のクラス、目の前の子どもたちに置き換えて考える。
対話には、そのきっかけをつくる力があると思います。
自分の考えを言葉にすると、保育を振り返ることができる
グループワークや話し合いには、もう一つ大切な意味があります。
それは、自分の考えを「言葉にすること」です。
日々の保育では、
「なんとなく、この関わりの方がいい気がする」
「この子には少し待った方がいいと思う」
と、経験の中で判断していることがたくさんあります。
ところが、
「どうしてそう思ったの?」
と聞かれると、意外と言葉にするのが難しいことがあります。
自分の考えを誰かに伝えようとすると、
「私は何を見てそう考えたんだろう」
「この子のどんな姿からそう感じたんだろう」
と、もう一度自分の保育を振り返ります。
普段は感覚的に行っていたことを言葉にしてみる。
これも立派な学びです。
そして、言葉にすることで、自分が大切にしている保育にも気づくことがあります。
研修は、新しい知識を増やすだけではなく、今まで自分が積み重ねてきた保育を振り返る時間にもなるのです。
他の保育士の考えを聞くと、自分にはなかった視点に出会える
保育には、一つの正解だけでは考えられない場面がたくさんあります。
例えば、遊びに入れずにいる子どもがいたとします。
「もう少し見守ってみよう」
と考える先生もいれば、
「保育者がきっかけをつくってあげた方がいい」
と考える先生もいるでしょう。
どちらかが正しく、どちらかが間違っているとは限りません。
大切なのは、
「なぜ、そう考えたの?」
と互いの考えを聞いてみることです。
経験年数も違えば、これまで働いてきた園も違います。
乳児保育が得意な先生もいれば、幼児保育の経験が長い先生もいます。
子どもの姿を見る視点も、得意な保育も、それぞれ違います。
だからこそ、他の保育士の考えを聞くと、
「そんな見方もあるんだ」
「私はそこを見ていなかったな」
と、自分一人では気づかなかった視点に出会うことがあります。
私は、この「そんな考え方もあるんだ」という気づきが、グループディスカッションの大きな価値の一つだと思っています。
誰かの答えをそのまま真似する必要はありません。
いろいろな考えを知ったうえで、もう一度自分なりに考えてみる。
それだけでも、自分の保育の引き出しは少しずつ増えていきます。
園内研修だからこそ「普段できない話」ができる
保育園の一日は、本当に忙しいです。
子どもが登園し、遊び、散歩に出かけ、食事をして、午睡をして、保護者のお迎えが来る。
その合間に記録を書いたり、行事の準備をしたり、職員同士で必要な情報を共有したりします。
同じクラスで働いている職員同士であっても、
「今の保育室について10分間じっくり考えてみよう」
という時間を日常の中でつくるのは、意外と難しいものです。
だからこそ、園内研修がそのきっかけになります。
例えば、環境構成について10分間話し合う。
「今、困っている場所はどこ?」
「子どもたちはどこで遊んでいる?」
「変えるとしたら、どこから変える?」
こんなことを職員同士で話してみる。
そして、グループごとに出た意見を発表して共有する。
それだけでも、
「じゃあ、明日この棚を少し動かしてみようか」
「このスペースの使い方を変えてみよう」
と、実際の改善につながることがあります。
普段なんとなく感じていたことを、立ち止まって考える。
職員同士で意見を出し合う。
考えをすり合わせる。
そして、小さくても次の行動につなげる。
園内研修は、園が一歩動き出すためのきっかけにもなると思っています。
グループワークは「正解を当てる時間」ではない
グループワークになると、
「何か正しいことを言わないといけない」
「経験のある先生が話した方がいい」
と考えてしまう人もいるかもしれません。
でも、園内研修のグループワークは、必ずしも正解を当てるための時間ではありません。
例えば、
「散歩に行きたくない子がいたらどうする?」
というケースを考えたとします。
「理由を聞いてみる」
「少し気持ちが変わるのを待ってみる」
「散歩先で楽しめそうなことを伝えてみる」
「今日は本当に行く必要があるのか考えてみる」
いろいろな意見が出るでしょう。
大切なのは、一つの正解に無理やりまとめることではなく、
「なぜ、その対応を選ぶのか」
を話してみることです。
その対話の中に、子どもの気持ちをどう捉えているのか、保育者として何を大切にしているのかが表れます。
違う考えが出たからこそ、学べることもあります。
だから私は、グループワークでは「正しいことを言おう」と構えすぎず、自分が感じたことや考えたことを一度言葉にしてみてほしいと思っています。
「研修に参加させられた」で終わらせるのは、やっぱりもったいない
ここまで書いてきましたが、だからといって、すべての研修に最初から高い意欲を持って参加できるとは思っていません。
興味のあるテーマもあれば、そうではないテーマもあります。
忙しい日に研修が入れば、
「今日は早く帰りたかったな」
と思うことだってあります。
それは仕方のないことです。
でも、参加することが決まったのであれば、
「何か一つ持って帰ろう」
くらいの気持ちで参加してみる。
私は、それだけでも研修の見え方が少し変わると思っています。
特に、グループワークや対話の時間は、自分から参加しなければ、そのまま時間が過ぎてしまいます。
反対に、
「自分のクラスだったらどうだろう?」
「今いる子どもたちに当てはめたら?」
「明日から使えることはないかな?」
と自分事として考えてみると、短い研修からでも得られるものがあります。
「研修をやってくれてありがとう」と無理に思う必要はありません。
でも、
「せっかく学ぶ時間があるなら、自分のために使ってみよう」
と少しだけ捉え方を変える。
そのくらいでいいのではないでしょうか。
研修で得た学びは、最後には子どもたちへ返っていく
研修で新しいことを一つ知る。
自分の考えを言葉にする。
他の先生の話を聞いて、自分にはなかった視点に気づく。
自分の保育を振り返る。
そして、明日の保育で一つ試してみる。
この積み重ねが、保育士としての自分の引き出しを増やしていきます。
そして、その学びが最後に返っていく先は、目の前にいる子どもたちです。
研修で学ぶ。
自分の保育が少し変わる。
職員同士の共通理解が増える。
園の保育が少しずつ良くなる。
その変化が、子どもたちの生活や遊びに返っていく。
そう考えると、研修に使う30分や1時間も、決して研修だけで完結する時間ではありません。
自分のレベルアップのためでもあり、園の保育を良くするためでもあり、その先にいる子どもたちのための時間でもあります。
私は、そこまでつながって初めて、園内研修を行う意味があるのだと思っています。
園長・主任・研修担当者にも「対話できる研修」を考えてほしい
ここまでは研修に参加する側を中心に書いてきましたが、これは受講者だけの話ではありません。
園長や主任、研修担当者など、研修を企画する側にもできることがあります。
限られた研修時間の中で、
「あれも伝えたい」
「これも知っておいてほしい」
と思うと、どうしても説明する時間が長くなります。
私自身も、研修をする立場になるのでよくわかります。
でも、60分間ずっと説明するのではなく、そのうち10分だけでも、
「自分たちの園ではどうだろう?」
と職員同士で考える時間にしてみる。
大掛かりなグループワークを用意しなくても構いません。
隣の人と2人で話す。
3人で一つのケースについて考える。
最後に一つずつ意見を発表する。
それだけでも研修は変わります。
大切なのは、職員がずっと受け身のままで終わらないことです。
考える。
言葉にする。
人の考えを聞く。
自分たちの保育に置き換える。
そして、できれば次の行動を一つ決める。
研修担当者がすべての答えを教えなくてもいいのだと思います。
職員同士の対話から答えを探していく。
これは、同じ園で同じ子どもたちを見ている職員が集まる「園内研修」だからこそできる学び方です。
園内研修でグループワークをするときに大切にしたいこと
グループワークを取り入れれば、それだけで良い研修になるわけではありません。
私は、次のようなことを意識しています。
・テーマを大きくしすぎない
・「自分の園ならどうする?」と考えられる問いにする
・2~3人でも話せる時間をつくる
・経験年数に関係なく意見を出せる雰囲気をつくる
・一つの正解にまとめようとしすぎない
・出た意見を聞くだけで終わらせず、実際の保育につなげる
例えば「より良い保育について考えましょう」では、テーマが大きすぎて何を話せばいいのかわかりません。
それよりも、
「今の保育室で、子どもが遊びにくそうな場所はありますか?」
「午睡中にヒヤリとした経験はありますか?」
「『早くして』を使わずに伝えるとしたら、どんな言葉掛けができますか?」
と具体的にした方が、話しやすくなります。
短い時間だからこそ、話しやすい問いを用意する。
それだけでも、グループワークはずっと参加しやすくなります。
園内研修のテーマに迷ったら
「対話を取り入れたいけれど、何について話し合えばいいかわからない」
という場合は、日頃の保育で感じている小さな疑問から考えてみるのがおすすめです。
安全管理、ヒヤリハット、不適切保育、環境構成、子どもの発達、保護者対応、職員間の連携など、園内研修につなげられるテーマはたくさんあります。
このブログでは、実際に園内研修で扱いやすいテーマやグループワークの方法をまとめた「保育園の園内研修ネタ30選」も紹介しています。
研修内容を考えるときには、テーマを探すだけでなく、
「このテーマについて、職員同士で何を話してほしいのか」
まで一緒に考えてみてください。
同じ研修テーマでも、問いのつくり方一つで、職員の参加の仕方は大きく変わります。
たった10分の対話でも、保育は変わるかもしれない
研修に参加することを、毎回楽しみにできる人ばかりではありません。
「忙しいな」
「面倒だな」
そんな気持ちで始まる研修があってもいいと思います。
でも、せっかく用意された学びの時間です。
自分の考えを一つ話してみる。
隣の先生の考えを聞いてみる。
自分のクラスに置き換えて考えてみる。
気になったことを一つ質問してみる。
それだけでも、「参加させられた研修」から「自分のための学びの時間」へ少しずつ変わっていきます。
そして研修をする側も、たくさんのことを一方的に伝えるだけではなく、職員が考え、話せる時間を少しつくってみる。
たった10分の対話から、明日の保育が変わることもあります。
誰かの考えを聞いたことで、子どもの見方が変わるかもしれません。
話し合ったことをきっかけに、保育室の環境が変わるかもしれません。
職員同士で同じことを考えたことで、園としての共通理解が一つ増えるかもしれません。
研修で得た学びを、その場だけで終わらせない。
自分の保育につなげ、職員同士で共有し、最後には子どもたちへ返していく。
私は、そんな研修をこれからも大切にしていきたいと思っています。

