保育士として働いていると、保護者からの一言に、
「これ、どう答えよう……」
と迷うことがあります。
たとえば、
「また噛まれたんですか?相手は誰ですか?」
「夜寝なくなるので、昼寝を絶対にさせないでください」
「家ではそんなことしません」
どれも、保育現場では起こり得るやり取りです。
もちろん、園として伝えなければならないこともあります。
「相手のお子さんの名前はお伝えできません」
「集団生活なので、ご希望どおりにできないこともあります」
そう説明すること自体が間違っているわけではありません。
ただ、保護者対応では「何を伝えるか」と同じくらい、「どんな順番で伝えるか」が大切です。
最初から園のルールや正しさを伝えるのか。
それとも、まず相手の気持ちを受け止め、「なぜそう思ったのだろう?」と考えてから話すのか。
それだけでも、保護者とのやり取りは大きく変わります。
今回は、保育士が対応に迷いやすい3つの事例をもとに、一緒に考えてみたいと思います。
なお、この記事で紹介する対応は「これが唯一の正解」というものではありません。
園内研修や職員会議で使用する場合は、対応例を読む前に一度止めて、
「自分ならどう答える?」
と職員同士で話し合ってみてください。
事例1「また噛まれたんですか?相手は誰ですか?」
お迎えのとき、保護者に子どもが噛まれてしまったことを伝えました。
すると保護者から、
「また噛まれたんですか?」
「この前もありましたよね?」
「相手は誰ですか?」
と聞かれました。
あなたなら、どう答えますか?
少し考えてみてください。
相手の子どもの名前を伝えることはできない。
だから、
「相手のお子さんの名前はお伝えできません」
と答える。
園のルールとしては、それでいいのかもしれません。
でも、それだけで終わってしまってよいでしょうか。
保育士として、こんなことを思うかもしれません
同じようなことが続き、さらに相手の名前を聞かれると、
「名前は教えられないんだけどな……」
「子ども同士のことだし、ずっと防ぐのも難しいよ……」
「名前を伝えたら、保護者同士のトラブルになるかもしれない」
そんなことが頭に浮かぶかもしれません。
そして、その思いのまま対応すると、
「申し訳ありません。相手のお子さんについてはお伝えすることができません。園でも今後このようなことがないように注意して見ていきます」
といった回答になりやすいでしょう。
もちろん、必要なことは伝えています。
ただ、保護者の立場から考えてみるとどうでしょう。
「また噛まれた」
ということに対する心配や不満を伝えた直後に、園から返ってきたのが「相手は教えられません」という説明だけだったら、
「私が聞きたいのはそこだけじゃないんだけど……」
と感じるかもしれません。
「相手は誰?」の前にある気持ちを考える
では、少し見方を変えてみましょう。
この保護者は、本当に「相手の名前」だけを知りたいのでしょうか。
「また同じことが起きるのではないか」
「うちの子は大丈夫なのか」
「先生たちはちゃんと見てくれているのか」
「前回から園は何か対応してくれたのか」
そんな不安が「相手は誰ですか?」という言葉になっている可能性もあります。
だとすれば、最初に答えるべきなのは名前を伝えられるかどうかではなく、その不安なのかもしれません。
こんな対応ならどうでしょう
「前回のこともありましたし、また噛まれてしまったと聞いたら心配になりますよね。今回も防ぐことができず、申し訳ありませんでした」
まず、繰り返していることへの保護者の心配を受け止めます。
そのうえで、
「相手のお子さんについては、個人が特定できることはお伝えできないのですが、今回どのような状況で起きたのか、園でどのように対応したのかはきちんとお伝えしますね」
と続けます。
そして、実際に確認できている事実を説明します。
何をしているときに起きたのか。
職員はどのように対応したのか。
今後どのような点を意識して見ていくのか。
保護者が本当に知りたかったのは、「誰が噛んだのか」以上に、
「また起こらないように園は考えてくれているのか」
なのかもしれません。
もちろん、だからといって相手の子どもの情報を伝えてよいという話ではありません。
ここでも、
「気持ちを受け止めること」と「要求を受け入れること」は別です。
なぜ、この順番なのか
最初に「教えられません」と言われれば、保護者には「拒否された」という印象が残ることがあります。
一方、
「繰り返していて心配ですよね」
と気持ちを受け止めたうえで、
「ただし、相手の情報についてはお伝えできません」
と説明する。
伝えている結論は同じでも、そこに至るまでのコミュニケーションが違います。
そしてもう一つ大切なのは、噛みつきを単純に「噛んだ子が悪い」「噛まれた子がかわいそう」で終わらせないことです。
特に乳児期には、言葉で気持ちを十分に表現できないことなど、さまざまな背景から噛みつきが起こることがあります。
だからこそ園側は、誰が悪いかではなく、「なぜ起きたのか」「どうすれば減らせるのか」を考えていく必要があります。
もう一歩考えてみましょう
では保護者から、
「名前を教えられないのは分かりました。でも、また同じ子に噛まれたらどうするんですか?」
と言われたら、あなたなら次に何と答えますか?
事例2「夜寝なくなるので、昼寝を絶対にさせないでください」
ある朝、保護者からこんな相談がありました。
「最近、夜なかなか寝てくれないんです」
そして、
「保育園で昼寝しているからだと思います。今日から昼寝を絶対にさせないでください」
と言われました。
あなたなら、どう答えますか?
保育士としては、いろいろなことが頭に浮かぶと思います。
「そう言われても……」と思うのは自然なこと
「園には園の生活リズムがあるし……」
「眠そうなのに無理やり起こしておくの?」
「一人だけずっと起こしておくのも難しい」
「子どもの休息も必要なんだけどな」
そう感じるのも無理はありません。
そのまま回答すると、
「園では午睡の時間がありますので、一人だけまったく寝かせないという対応は難しいです」
あるいは、
「子どもには休息も必要なので、昼寝を完全になくすことはできません」
という説明になるかもしれません。
これも園として必要な説明になることがあります。
でも、保護者はなぜ「絶対に寝かせないで」とまで言ったのでしょう。
困っているのは「昼寝」ではなく「夜」かもしれない
少し見方を変えてみます。
保護者が本当に困っているのは、
「園で昼寝をしていること」
そのものではないのかもしれません。
夜なかなか寝てくれない。
寝かしつけに長い時間がかかる。
翌朝も起きられない。
毎日の生活リズムが崩れて困っている。
その原因を考えた結果、
「保育園の昼寝なのでは?」
と考えている可能性があります。
だとすれば、まず知りたいのは「昼寝をなくせるか」だけではありません。
こんなふうに聞いてみたらどうでしょう
「夜なかなか寝てくれないと、毎日のことですし大変ですよね。最近は何時頃に寝ていますか?」
まず、家庭で困っていることを受け止めます。
そして、
「園では最近、○時頃から○時頃まで寝ています。入眠にもそれほど時間はかかっていないので、園での様子も含めて一緒に考えてみましょうか」
と、園での事実を伝えます。
そのうえで、
「午睡をまったくしないという対応ができるかどうかは園で確認が必要ですが、起きる時間を少し調整できるかなど、できることがあるか考えてみますね」
という伝え方も考えられます。
もちろん、年齢や子どもの状態、園の方針などによって対応は変わります。
大切なのは、
「昼寝をさせないで」
に対して、
「できます・できません」
だけで終わらせないことです。
保護者と園は対立する必要はない
保護者は家庭での夜の生活を見ています。
保育士は園での日中の姿を見ています。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではありません。
家庭から見えている姿と園から見えている姿を持ち寄って、
「この子にとって今どんな生活リズムがいいのだろう」
と一緒に考える。
そこまでできれば、単なる要望への回答ではなく、家庭と園が一緒に子どもの生活を考える機会にもなります。
一方で、園として難しい対応まで約束する必要はありません。
ここでも、
「困っている気持ちを受け止める」
ことと、
「昼寝を絶対にさせないという要望を受け入れる」
ことは別です。
もう一歩考えてみましょう
では保護者から、
「短くするんじゃなくて、絶対に寝かせないでほしいんです」
と改めて強く言われたらどうでしょう。
あなたの園では、何を確認し、どのように伝えますか?
事例3「家ではそんなことしません」
園では最近、友達が使っている玩具を取ってしまったり、思いどおりにならないと手が出たりする姿が見られる子がいます。
保育士は、お迎えの際にその日の出来事として保護者へ伝えました。
すると、
「え?家ではそんなことしませんけど」
と言われました。
あなたなら、次に何と答えますか?
これも、保育士にとっては意外と難しい一言です。
保育士側からすると……
「でも、園では実際にあったんだけど……」
「別に嘘を言っているわけじゃないし……」
「園での姿を伝えただけなのに」
と思うかもしれません。
そして、
「そうなんですね。でも園では最近、お友達に手が出ることが何度かあります」
と事実をもう一度説明したくなることもあるでしょう。
もちろん、園で起きたことを伝える必要はあります。
しかし、このやり取りが、
保育士:「園ではやっています」
保護者:「家ではやりません」
という「どちらが正しいのか」の話になってしまうと、本当に考えたいことから離れていきます。
家と園で姿が違ってもおかしくない
ここで少し見方を変えてみます。
「家ではそんなことしません」
という言葉は、必ずしも、
「先生の言っていることは嘘です」
という意味ではありません。
本当に家庭では見たことがなく、驚いているのかもしれません。
「うちの子がそんなことをするなんて」とショックを受けているのかもしれません。
あるいは、保育士から責められているように感じて、とっさに出た言葉なのかもしれません。
そして何より、家庭と保育園では環境が違います。
関わる人数も違います。
玩具の数や遊び方も違います。
友達との関係もあります。
「家ではしない」と「園ではする」は、必ずしも矛盾する話ではありません。
こんな対応ならどうでしょう
「そうなんですね。お家ではこういう姿は見られないんですね」
まず、保護者の話をそのまま受け止めます。
そのあと、
「園ではお友達と一緒に過ごす中で、使いたい玩具が重なったときや、思いがうまく伝わらなかったときに手が出そうになることがあります」
と、具体的な状況を伝えます。
さらに、
「もちろん毎回ではないですし、○○ちゃん自身も少しずつ言葉で伝えようとしています。園でもどういうときに起きやすいのかを見ながら関わっていきますね」
と伝えることもできます。
必要であれば、
「お家では、思いどおりにならないときはどんな様子ですか?」
と聞いてみてもいいでしょう。
ここまで来ると、
「園でやった・家ではやらない」
という対立ではなく、
「この子はどんなときに困りやすいのだろう」
という話に変わっていきます。
伝える目的を忘れない
園で困った行動があったとき、保護者へ伝える目的は何でしょう。
「今日こんなことをしました」と報告して終わることでも、
「家庭でも注意してください」と責任を渡すことでもないはずです。
園で見えている子どもの姿を共有し、家庭で見えている姿も聞きながら、その子への理解を深めていく。
そのための情報共有です。
だからこそ、
「家ではそんなことしません」
と言われたときも、
「いや、園ではしています」
と証明する必要はありません。
むしろ、
「家では違うんですね。では、何が違うんだろう?」
と考えられれば、その子を理解するための新しい情報になります。
もう一歩考えてみましょう
では、
「家でしないなら、園での関わり方に問題があるんじゃないですか?」
と言われたらどうでしょう。
あなたなら、その保護者の気持ちをどう受け止め、園での状況をどう伝えますか?
3つの事例に共通していること
今回の3つを振り返ると、
「相手は誰ですか?」
「昼寝を絶対にさせないでください」
「家ではそんなことしません」
と、表面上はまったく違う話です。
でも、共通することがあります。
それは、保護者の言葉にすぐ答えようとすると、「できる・できない」「正しい・間違っている」という話になりやすいことです。
「相手は誰?」
→「教えられません」
「昼寝をさせないで」
→「できません」
「家ではしません」
→「でも園ではしています」
どれも事実として間違っているとは限りません。
それでも、会話がそこで終わってしまいます。
少し順番を変えてみます。
保護者の言葉を受け止める。
その言葉の背景を考える。
必要であれば質問する。
そして、そのうえで園として伝えるべきことを伝える。
この順番を意識するだけでも、保護者とのコミュニケーションは変わってきます。
「受け止める」と「受け入れる」は違う
保護者対応を考えるとき、この2つは分けて考える必要があります。
「また噛まれたら心配ですよね」
と伝えることは、相手の子どもの名前を教えることではありません。
「夜寝ないと大変ですよね」
と伝えることは、必ず昼寝をなくすことではありません。
「家では見られない姿なんですね」
と伝えることは、園で起きたことをなかったことにするわけでもありません。
気持ちを受け止めたうえで、園としてできないことはできないと伝える。
必要なことは、きちんと伝える。
だからこそ、保護者の要望にすべて応えることが「良い保護者対応」なのではありません。
大切なのは、その結論に至るまでの対話です。
園内研修で使うなら「正解を当てる研修」にしない
今回の3つの事例は、そのまま園内研修や職員会議の事例検討にも使えます。
使い方は難しくありません。
- まず事例だけを読む
- 「自分なら最初に何と答えるか」を一人ずつ考える
- 職員同士で回答と、その理由を話す
- この記事の対応例を読む
- 「なぜこの言葉から始めているのか」を考える
- 最後の「もう一歩考えてみましょう」について話し合う
ここで大切なのは、
「記事と同じ回答をした人が正解」
という研修にしないことです。
むしろ、
「私はこう答える」
「うちの園ならこうする」
「この保護者との関係性だったら違う言い方をするかも」
と、いろいろな意見が出た方がいいと思います。
そして、「何と言うか」だけではなく、
「なぜその言葉を選んだのか」
まで話してみてください。
そこに、それぞれの保育士が大切にしている保護者対応の考え方が表れます。
保護者対応に一つの正解はない
今回紹介した3つの対応例も、あくまで一例です。
同じ「相手は誰ですか?」という質問でも、初めて噛まれた家庭と、何度も続いている家庭では受け止め方が違います。
昼寝についても、子どもの年齢や生活リズム、園での姿によって考えることは変わります。
「家ではそんなことしません」という言葉も、その保護者とのこれまでの関係によって、伝え方は変わるでしょう。
だから、例文をそのまま覚える必要はありません。
大切なのは、
「なぜ、この保護者はこう言ったのだろう?」
「今、一番不安に思っていることは何だろう?」
「園として伝えなければならないことは何だろう?」
と、一度考えてみることです。
この記事を読んで、
「自分たちの園だったらどうする?」
という話が職員同士で始まったなら、それだけでも立派な保護者対応の研修になります。
目の前にいる子どもも、保護者も、これまで築いてきた関係も、一つとして同じものはありません。
だからこそ、用意された言葉を当てはめるだけではなく、その場で考えることが必要になります。
この記事の中に、すべてのケースに当てはまる模範解答はありません。
本当の正解は、目の前の子どもと保護者に向き合っている、それぞれの現場の中にあります。
保育園の保護者対応、こんなときどうする?現場で考えたい3つの事例と会話例 | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~
園内研修は「対話」で変わる|グループワーク・話し合いが保育の学びを深める理由 | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~

