「園での気になる様子を、保護者にどう伝えたらいいんだろう」
「伝えなければいけないことはある。でも、傷つけたくはない」
「よかれと思って伝えたのに、保護者との距離ができてしまった気がする」
保育現場で働いていると、保護者への伝え方に悩む場面は少なくありません。
特に、
友達とのトラブルが多い。
集団活動に入りにくい。
落ち着いて過ごすことが難しい。
言葉で気持ちを伝えることが苦手。
食事や着替えなどに時間がかかる。
こうした「園で気になっている姿」を伝える時には、保育士としても慎重になります。
伝えなければ、保護者は園での子どもの姿を知ることができません。
一方で、伝え方を間違えると、
「うちの子に問題があると言われた」
「家庭での育て方を責められている」
「他の子はできているのに、うちの子だけできないと言われた」
と受け止められてしまうことがあります。
だからこそ、保護者対応では、
「何を伝えるか」だけではなく、「どう伝えるか」
がとても大切です。
インクルーシブ保育における保護者との対話は、指導や評価をするための時間ではありません。
子どもの姿を一緒に見つめ、
「この子にとって、今何が必要なのだろう?」
と、園と家庭が一緒に考えていくための時間です。
今回は、インクルーシブ保育の考え方を踏まえながら、保護者との信頼関係を築くために大切にしたい「言葉選び」について考えていきます。
保護者は「指導する相手」ではなく「子どもを一緒に支えるパートナー」
保護者対応で、まず大切にしたいのがこの視点です。
保育士は、保護者に子育ての正解を教える立場ではありません。
もちろん、専門職として伝えるべきことはあります。
園で起きていることを伝える必要もあります。
子どもの安全や育ちに関わることであれば、曖昧にせず伝えなければならないこともあります。
ただし、
「保育士が正解を持っていて、それを保護者に教える」
という関係になってしまうと、保護者はどうしても身構えてしまいます。
そうではなく、
「園で見えている姿を共有して、一緒に子どもを見ていく」
という関係をつくる。
これが、保護者との信頼関係のスタートだと思います。
例えば、
「園ではこういう場面があります」
「私たちはこう関わっています」
「こうすると少し安心して過ごせるようです」
「ご家庭ではどんな様子でしょうか?」
と伝える。
園から一方的に答えを出すのではなく、家庭での姿も含めて一緒に考えていきます。
子どもは、園で見せる姿と家庭で見せる姿が同じとは限りません。
だからこそ、保護者の話にも耳を傾けることが大切なのです。
保護者対応で意識したい5つのこと
子どもの気になる姿を伝える時には、次の5つを意識してみてください。
① 他の子どもと比較しない
「みんなはできています」
「○○ちゃんはできているのに」
という言葉は、保育士にとっては状況を説明するための言葉だったとしても、保護者にとっては、
「うちの子だけ遅れている」
と受け止められる可能性があります。
子どもの成長は、一人ひとり違います。
比較するのではなく、その子自身の姿を伝えることが大切です。
② 子どもを評価しない
「落ち着きがない子です」
「わがままなところがあります」
「協調性がありません」
こうした言葉は、子どもの一部分の姿を、その子自身の性格や人格のように受け取らせてしまうことがあります。
「○○の場面では、席を離れることがあります」
「友達との関わりの中で、気持ちが高ぶると手が出ることがあります」
というように、まずは具体的な事実を伝えます。
③ 決めつけない
「家庭でもそうなんじゃないですか?」
「おうちで甘やかしているのでは?」
といった言葉は、保護者を責めることにつながってしまいます。
子どもの姿には、さまざまな背景があります。
家庭環境だけで説明できるものでもありません。
だからこそ、
「園ではこういう姿があります」
と、まずは園で見えている事実を共有することが大切です。
④ 未来を断定しない
「このままだと小学校で苦労します」
「今のうちに直さないと大変です」
といった言葉は、保護者の不安を一気に高めてしまいます。
子どもの成長は、今の姿だけで未来を決められるものではありません。
必要な支援や環境を考えながら、その時々の成長を見ていくことが大切です。
⑤ 「正しいことを伝える」より「関係を続ける」ことを大切にする
これは、保護者対応で特に大切にしたいことです。
その場でこちらの考えを理解してもらうことだけを目的にすると、話が対立してしまうことがあります。
でも、
「また相談してみよう」
「この先生なら話を聞いてくれる」
と思ってもらえれば、次の対話につながります。
一度の説明で完璧に理解してもらうことより、
これからも一緒に子どもを見ていける関係をつくること。
その方が、結果として子どものためになることがあります。
「気になる」をそのまま伝えない
保育士同士では、
「最近、ちょっと落ち着きがないよね」
「友達への手が多いね」
「集団に入りにくいね」
という会話をすることがあります。
職員間で情報共有すること自体は必要です。
ただ、それをそのまま保護者に伝えるのではなく、
「具体的にどんな場面で、どんな姿が見られたのか」
まで整理してから伝えることが大切です。
例えば、
「最近、落ち着きがなくて……」
ではなく、
「制作の時間になると、最初は座っているのですが、5分ほどすると席を離れて部屋の中を歩くことがあります」
と伝える。
「友達に手が出ます」
ではなく、
「友達と玩具の取り合いになった時に、気持ちを言葉で伝える前に手が出てしまうことがあります」
と伝える。
この違いは、とても大きいものです。
「落ち着きがない子」
という評価ではなく、
「こういう場面で、こういう行動が見られる」
という事実になるからです。
「問題行動」ではなく「困りごとが表れている」と考える
保育士自身の見方が変わると、保護者への伝え方も変わります。
例えば、
「問題行動がありました」
ではなく、
「少し困っていることが行動として表れている場面があります」
と考えてみる。
「集団行動が苦手です」
ではなく、
「集団の中で、本人なりの過ごし方を探しているように感じます」
と考えてみる。
もちろん、言葉を柔らかくするだけでは十分ではありません。
大切なのは、
保育士自身がその子をどう見ているか
です。
「困った子」と見ているのか。
「困っている子」と見ているのか。
この違いは、言葉の端々に表れます。
そして、保護者にも伝わります。
明日から使える「言い換え」の考え方
ここで、保護者との会話で使いやすい言い換えをいくつか紹介します。
「落ち着きがなくて……」
ではなく、
「刺激が多い場面では、少し疲れやすい様子があります」
と伝えてみる。
「叩いてしまって……」
ではなく、
「気持ちが高ぶった時に、言葉より先に行動で表現することがあります」
と伝える。
「ルールが守れなくて……」
ではなく、
「集団の中での約束を、少しずつ理解している途中かなと感じています」
と伝える。
「みんなと違って……」
ではなく、
「この子なりのペースで成長しているところだと感じています」
と伝える。
「集団行動が苦手です」
ではなく、
「集団の中で、自分が安心できる過ごし方を探している段階なのかもしれません」
と伝える。
「問題行動があります」
ではなく、
「困っていることが、行動として表れている場面があります」
と伝える。
「専門機関に相談した方がいいです」
と一方的に伝えるのではなく、
「園以外の視点も聞いてみることで、今後の関わり方を考える材料が増えるかもしれません」
と伝える。
ただし、ここで注意したいのは、
「言葉を柔らかくすれば何でもいい」ということではない
ということです。
事実を隠すことも、問題を小さく見せることも、保護者にとって本当の安心にはなりません。
大切なのは、
事実はきちんと伝えながら、保護者を責める言葉にしないこと。
そして、
「一緒にどうしていくか」まで伝えること。
ここがポイントです。
「共感+事実+園での対応」で伝える
保護者に気になる姿を伝える時、私は、
「共感+事実+園での対応」
という順番を意識すると伝えやすいと思います。
例えば、友達とのトラブルが続いている子の場合。
いきなり、
「今日も友達を叩いてしまいました」
と伝えるのではなく、
まず、
「最近、お友達との関わりも増えてきましたね」
と、その子の成長や現在の姿に目を向ける。
その上で、
「一方で、玩具の取り合いなどで気持ちが高ぶると、言葉より先に手が出てしまう場面があります」
と事実を伝える。
そして、
「園では、トラブルになる前に保育士が間に入り、『まだ使いたかったね』『貸してって言おうか』と気持ちを言葉にするようにしています」
と、園での対応を伝える。
最後に、
「ご家庭ではどうですか?」
と聞いてみる。
こうすることで、
「問題があるので直してください」
という話ではなく、
「園ではこういう姿があります。私たちはこう関わっています。ご家庭ではどうでしょう。一緒に考えていきましょう」
という対話になります。
保護者の「どうしたらいいか分からない」に寄り添う
保育士が保護者に話をすると、
「家ではどうしたらいいですか?」
と聞かれることがあります。
この時、保育士がすぐに「こうしてください」と答える必要はありません。
むしろ、
「園でも、どうしたらこの子が安心して過ごせるかを考えているところです」
「今はこういう関わりが合っているようなので、しばらく続けながら様子を見てみましょう」
「ご家庭ではどんな時に困ることが多いですか?」
と、もう一度一緒に考えてみる。
保護者も、
「子育ての専門家ではないといけない」
わけではありません。
保育士と同じように、
「この子のためにどうしたらいいんだろう」
と悩んでいることがあります。
だからこそ、
「園と家庭で一緒に考えていきましょう」
という姿勢そのものが、保護者にとって大きな安心になります。
保護者の言葉の裏側にある「不安」を見る
保護者が、
「家ではそんなことありません」
「そんなふうに言われたことはありません」
「どうしてうちの子だけ言われるんですか?」
と反応することもあります。
その時、
「分かってもらえない」
と感じてしまうことがあるかもしれません。
でも、その言葉の奥には、
「うちの子は大丈夫なのだろうか」
「自分の育て方が悪いのだろうか」
「園で嫌な思いをしていないだろうか」
という不安が隠れていることがあります。
だからこそ、まずは否定せず、
「そうなんですね。ご家庭ではそういう姿なんですね」
と受け止める。
園での姿と家庭での姿が違うことは、決しておかしなことではありません。
むしろ、
「園ではこういう姿、家庭ではこういう姿がある」
という情報が増えることで、その子をより立体的に理解できるようになります。
保護者に「安心してください」と言うだけでは安心できない
保護者が不安そうにしていると、
「大丈夫ですよ」
「心配しなくて大丈夫です」
と言いたくなることがあります。
もちろん、安心してほしいという気持ちは大切です。
ただ、具体的な根拠のない「大丈夫」は、かえって不安を残してしまうことがあります。
それよりも、
「園ではこういう場面で困ることがあります」
「ただ、こうすると落ち着いて過ごせています」
「最近は○○ができるようになってきました」
「今後はこういう関わりを続けていきたいと思っています」
と、
「今の姿」と「できていること」と「これからの対応」
を具体的に伝える。
その方が、保護者にとって本当の安心につながります。
保護者対応は「一回の面談」で終わらせない
子どもの成長には時間がかかります。
一度話をしたから、
「これで保護者にも伝わった」
と終わりにするのではなく、
その後の小さな変化も伝えていくことが大切です。
「この前お話しした○○ですが、今日は自分から『貸して』と言えていましたよ」
「最近、少しずつ集団の中に入れる時間が長くなっています」
「今日はお友達とのトラブルの後、自分から保育士に気持ちを伝えに来てくれました」
こうした小さな報告が、
「園はちゃんと子どもを見てくれている」
という信頼につながります。
気になることを伝えるだけの園ではなく、
子どもの成長や変化も一緒に伝えてくれる園
であること。
これは、保護者との関係をつくる上で、とても大切なことだと思います。
保護者対応で大切なのは「上手な話し方」ではない
保護者対応というと、
「どういう言葉を使えばいいのか」
「何と言えばクレームにならないのか」
と、話し方のテクニックに目が向きがちです。
もちろん、言葉選びは大切です。
でも、それ以上に大切なのは、
保育士がその子をどう見ているか
だと思います。
「困った子」ではなく「困っている子」。
「できない子」ではなく「できる方法を探している途中の子」。
「集団に合わせられない子」ではなく「安心して参加できる方法を探している子」。
そうやって子どもを見ることができれば、保護者への言葉も自然と変わっていきます。
まとめ|保護者に伝えたいのは「問題」ではなく「一緒に考えていく姿勢」
保護者対応で大切なのは、
「正しいことを伝えること」
だけではありません。
子どもの姿を正確に伝える。
保護者の気持ちにも耳を傾ける。
園でどのように関わっているのかを伝える。
そして、
「これからも一緒に考えていきましょう」
という関係をつくることです。
比較しない。
評価しない。
決めつけない。
未来を断定しない。
そして、保護者を「指導する相手」ではなく、
子どもを一緒に支えるパートナーとして見る。
この視点を持つだけでも、保護者への言葉は大きく変わっていきます。
保護者が園から帰る時に、
「うちの子、大丈夫かな……」
という不安だけを抱えて帰るのではなく、
「先生も一緒にこの子のことを考えてくれているんだ」
と思ってもらえる。
そんな関係をつくることができれば、それは子どもにとっても大きな安心になります。
保育士の言葉は、単なる情報伝達ではありません。
時には、保護者の不安を大きくすることもあります。
反対に、
「一緒に考えてくれる人がいる」
という安心を届けることもできます。
だからこそ、私たち保育者は、
「何を伝えるか」
だけではなく、
「この言葉を受け取った保護者は、どんな気持ちになるだろう」
と一度立ち止まって考えてみたいと思います。
言葉を少し変える。
子どもの見方を少し変える。
保護者との関係を少し変える。
その小さな積み重ねが、
園と家庭が一緒になって子どもの育ちを支える関係
につながっていくのではないでしょうか。
内部リンク
「子どもの好き嫌いにどう向き合う?」
「保護者ファースト」が保育を壊すこともある
「インクルーシブ保育とは?」
「その子の「今」に寄り添うインクルーシブ保育|今日からできる関わり方と実践のヒント」


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