「担任なんだから、自分で何とかしなきゃ」
「自分のクラスのことだから、周りに頼るのは申し訳ない」
「困っているけれど、こんなこともできないと思われたくない」
保育現場で働いていると、そんな気持ちになったことはないでしょうか。
子どもへの関わりに悩んでいる。
クラス運営がうまくいかない。
何度対応しても同じことが起こる。
でも、周りの先生たちは忙しそう。
だから、
「もう少し自分で頑張ってみよう」
と抱え込んでしまう。
そして気づいた時には、心にも身体にも余裕がなくなっている。
私は、保育の現場で起きるさまざまな問題を見てきましたが、保育士一人の「頑張り」だけでは解決できないことはたくさんあると感じています。
むしろ、一人で抱え込んでしまうことによって、保育士自身が追い詰められ、結果として子どもへの関わりにも余裕がなくなってしまうことがあります。
だからこそ、インクルーシブ保育を考える時には、
「子どもをどう支えるか」だけではなく、「保育者自身をどう支えるか」
という視点も必要なのではないでしょうか。
保育士も、一人の人間です。
得意なこともあれば、苦手なこともあります。
子どもとの関係づくりが得意な人もいれば、環境構成が得意な人もいます。
保護者対応が得意な人もいれば、記録や計画を丁寧に積み上げることが得意な人もいます。
そして、どんなに経験のある保育士でも、疲れている時や余裕がない時があります。
それは、決して悪いことではありません。
違いがあるからこそ、チームで保育をする意味があります。
今回は、インクルーシブ保育の考え方を保育者自身にも広げながら、「一人で抱え込まない保育」をどうつくっていくかについて考えていきます。
- 「保育士もインクルーシブ」でいい
- 「迷うこと」は、未熟さではない
- 「助けて」と言えることも、保育士の専門性
- チームがうまく回らない時は、「誰か」ではなく「構造」を見る
- 子どもに無理が出ていないか
- 保育者に無理が集中していないか
- 「例年通り」が、今年も正解とは限らない
- 迷った時は「4つの順番」で考えてみる
- 「判断は園長、共有は全員」という考え方
- 「SOSを出せる園」は、子どもにとっても安全な園
- 「保育士が安心できること」と「子どもが安心できること」はつながっている
- 完璧な保育士を目指さなくていい
- チーム保育とは「みんなで同じことをする」ことではない
- まとめ|一人で頑張る保育から、チームで支える保育へ
- 「インクルーシブ保育をもっと学ぶ」
「保育士もインクルーシブ」でいい
インクルーシブ保育というと、
「一人ひとりの子どもの違いを認めること」
と考えることが多いと思います。
もちろん、それは大切なことです。
でも、同じ考え方は保育者にも当てはまるのではないでしょうか。
保育士も一人ひとり違います。
経験年数も違う。
得意なことも違う。
苦手なことも違う。
子どもとの距離感も違う。
判断の仕方も違う。
それでいいのだと思います。
「経験の浅い先生だから、できなくて当然」
という意味ではありません。
専門職として学び続けることは必要です。
ただ、
「何でも一人で完璧にできる保育士でなければならない」
という考え方は、チーム保育とは少し違います。
例えば、子どもとの関わり方に悩んでいる保育士がいたら、
「もっと頑張って」
ではなく、
「一緒に見てみようか」
と言える。
環境構成が苦手な職員がいたら、
「ちゃんと考えて」
ではなく、
「ここを少し変えてみるとどうかな」
と一緒に考える。
保護者対応に不安がある職員がいたら、
「自分で対応して」
ではなく、
「一緒に話そうか」
と支える。
こうした関係があることで、それぞれの保育士が自分の力を発揮しやすくなります。
「迷うこと」は、未熟さではない
保育をしていると、
「これでよかったのかな」
と思う瞬間があります。
子どもへの声かけ。
友達とのトラブルへの対応。
保護者への伝え方。
活動の進め方。
その場では判断したけれど、後から考えると、
「別の関わり方もあったかもしれない」
と思うこともあります。
でも、私は、
迷うこと自体が悪いことではない
と思っています。
むしろ、
「これでいいのかな?」
と立ち止まることは、子どものことを真剣に考えているからこそ生まれるものです。
怖いのは、何も考えずに、
「これが正しい」
と決めつけてしまうことです。
保育には、すべての場面に一つの正解があるわけではありません。
だからこそ、
「私はこう考えたけれど、どう思いますか?」
と他の保育士に聞いてみる。
違う視点をもらう。
そして、また自分の保育を考える。
その繰り返しが、保育士自身の専門性を高めていくのだと思います。
「助けて」と言えることも、保育士の専門性
「助けてください」
「どうしたらいいか分かりません」
「少し代わってもらえますか?」
こうした言葉を言うことに、抵抗を感じる保育士もいるかもしれません。
「自分の力不足だと思われそう」
「担任なのに情けない」
「周りに迷惑をかける」
そんな気持ちになることもあるでしょう。
でも、本当にそうでしょうか。
例えば、
子どもが何人も泣いている。
一人がパニックになっている。
別の子が友達とトラブルになっている。
その状況で、
「自分一人で何とかしなければ」
と無理をするより、
「すみません、少し手を貸してください」
と声を出した方が、子どもにとって安全なことがあります。
つまり、
助けを求めることは、保育を諦めることではありません。
子どもと自分自身を守るための、専門的な判断です。
チームがうまく回らない時は、「誰か」ではなく「構造」を見る
クラスが落ち着かない時、
「この子が大変だから」
「担任の経験が浅いから」
「もっと声をかければいい」
と、誰か一人の問題として考えてしまうことがあります。
でも、少し立ち止まって考えてみます。
本当に、その人だけの問題でしょうか。
子どもに無理がかかっていないか。
保育者に無理が集中していないか。
そもそも環境や活動の流れが合っているのではないか。
この3つの視点で見ると、見えてくるものが変わります。
子どもに無理が出ていないか
子どもが落ち着かない。
怒りっぽい。
何度も走ってしまう。
活動に入れない。
友達とのトラブルが増える。
そんな時、
「もっと言葉で伝えないと」
「ちゃんと座らせないと」
と、子どもへの働きかけばかりを増やしていないでしょうか。
もちろん、伝えることは必要です。
でも、
活動時間が長すぎないか。
待ち時間が長くなっていないか。
音や人の刺激が多すぎないか。
子どもが見通しを持てる環境になっているか。
子どもの姿を「指導不足」と考える前に、
「今の環境が、この子たちに合っているだろうか?」
と考えてみることも大切です。
保育者に無理が集中していないか
次に見てほしいのが、保育者側です。
特定の先生だけが、ずっと一人の子どもの対応をしていないでしょうか。
一人の職員だけがトラブル対応を抱えていないでしょうか。
休憩が十分に取れているでしょうか。
書類や記録が特定の人に偏っていないでしょうか。
「この先生が得意だから」
という理由で、いつも同じ人に対応を任せていると、最初はうまくいっていても、少しずつ負担が積み重なります。
そして、余裕がなくなれば、保育士も感情的になりやすくなります。
これは個人の性格の問題ではありません。
人は余裕を失えば、誰でも判断や感情のコントロールが難しくなることがあります。
だからこそ、職員の負担を見ることも、子どもの安全を守ることにつながります。
「例年通り」が、今年も正解とは限らない
もう一つ大切なのが、環境や保育の流れです。
保育現場では、
「去年はこれでうまくいった」
「例年この流れでやっている」
ということがあります。
もちろん、これまでの経験は大切です。
ただ、
去年の子どもたちと、今年の子どもたちは違います。
人数も違う。
子どもの発達も違う。
クラスの組み合わせも違う。
職員の構成も違う。
それなのに、
「去年と同じようにできるはず」
と考えてしまうと、子どもにも保育士にも無理が生じることがあります。
活動の時間を短くする。
順番を変える。
場所を変える。
職員の配置を変える。
予定を柔軟に変更する。
こうした調整は、「計画通りにできなかった」のではありません。
今の子どもたちに合わせて、保育を調整した
と考えることもできます。
迷った時は「4つの順番」で考えてみる
対応に行き詰まった時、頭の中でいろいろなことを考えてしまうと、さらに焦ってしまいます。
そんな時は、次の4つに整理してみます。
STEP1|まず安全を確保する
原因を考える前に、
「今、危険はないか?」
を確認します。
けがにつながる可能性がある。
友達同士で激しいトラブルになっている。
子どもがパニック状態になっている。
そうした場合には、まず安全を守ります。
完璧な声かけを考えるのは、その後で大丈夫です。
STEP2|その前に何があったか振り返る
「突然こうなった」
と思う行動にも、その前には何かきっかけがあることがあります。
音が大きかった。
人が増えた。
活動が長かった。
予定が急に変わった。
眠かった。
疲れていた。
友達との距離が近かった。
こうした背景を振り返ってみます。
STEP3|今、何が足りないのかを考える
「どうしてできないの?」
と考えるのではなく、
「今、この子に何が足りないのだろう?」
と考えてみます。
言葉が足りないのか。
見通しが足りないのか。
休息が足りないのか。
安心できる場所が足りないのか。
保育士とのつながりが足りないのか。
叱る前に、「足りないものを補う」という発想を持ってみます。
STEP4|迷った時点で共有する
最後に、一番大切なのがこれです。
一人で抱え込まない。
「ちょっと困っています」
という段階で共有していいのです。
大きな問題になってから相談する必要はありません。
むしろ、
「少し気になる」
「まだ何が原因か分からない」
という段階で共有した方が、チームで考えやすくなります。
「判断は園長、共有は全員」という考え方
チーム保育を考える上で、園長や主任など管理者の役割も非常に重要です。
現場の保育士に、
「困ったら相談してね」
と言うだけでは、十分ではありません。
なぜなら、相談しやすいかどうかは、職員個人の性格だけで決まるものではないからです。
「こんなことを相談したら怒られる」
「自分で考えてと言われそう」
「忙しそうだから声をかけられない」
そんな雰囲気がある園では、職員は自然とSOSを出さなくなります。
だからこそ、管理者側から、
「どう?困っていることない?」
と声をかける。
「一緒に見ようか」
と入っていく。
「判断に迷ったら、早めに相談して大丈夫だよ」
と伝えておく。
そして、相談があった時には、
「なんでそうしたの?」
と責めるのではなく、
「何が難しかった?」
と一緒に考える。
こうした積み重ねによって、初めて「相談できる園」になっていきます。
「SOSを出せる園」は、子どもにとっても安全な園
職員が何でも一人で抱えている園を、
「責任感の強い職員が多い良い園」
と評価してしまうことがあります。
でも、私は少し違うと思っています。
本当に大切なのは、
「困った時に、困ったと言える園」
なのではないでしょうか。
保育士が疲れている。
判断に迷っている。
子どもへの対応が難しい。
そんな時に、
「ちょっと助けて」
と言える。
そして、
「分かった。代わるよ」
と言える。
それだけでも、子どもへの関わりは大きく変わります。
一人の保育士に余裕がなくなる前に、チームが支える。
それは、保育士を甘やかすことではありません。
子どもへのより良い保育を維持するための仕組みです。
「保育士が安心できること」と「子どもが安心できること」はつながっている
子どもに、
「失敗しても大丈夫だよ」
「困ったら先生に言っていいよ」
と伝えるのであれば、保育士自身も、
「困ったら周りに言っていい」
と思える環境である必要があります。
子どもに、
「自分のペースでいいよ」
と伝えるのであれば、保育士にも、
「得意・不得意があっていい」
という環境が必要です。
子どもに、
「みんな違っていいんだよ」
と伝えるのであれば、保育士同士も、
「それぞれの得意なことを活かせばいい」
という関係でありたいと思います。
つまり、
子どもに対して大切にしている価値観は、職員同士の関係にもつながっている
のです。
完璧な保育士を目指さなくていい
保育士は責任の大きな仕事です。
だからこそ、
「もっとできるようにならなければ」
「もっと勉強しなければ」
「失敗してはいけない」
と思うこともあるでしょう。
もちろん、専門職として学び続けることは大切です。
でも、
完璧な保育士になることと、良い保育をすることは同じではありません。
自分一人では難しいことを、誰かに相談できる。
自分とは違う視点を受け入れられる。
失敗した時に振り返ることができる。
分からないことを「分からない」と言える。
必要な時に助けを求められる。
こうした力も、保育士として大切な専門性だと思います。
チーム保育とは「みんなで同じことをする」ことではない
チーム保育というと、
「職員全員が同じ考え方で、同じ対応をする」
ことだと思われることがあります。
もちろん、子どもの安全や園としての基本的な方針については、共通理解が必要です。
ただ、すべてを同じにする必要はありません。
ある先生は子どもとじっくり話すのが得意。
別の先生は、環境を整えるのが得意。
別の先生は、子どもの小さな変化に気づくのが得意。
それぞれの強みを持ち寄ることで、一人では見えなかった子どもの姿が見えてくることがあります。
だからこそ、
「全員が同じになる」のではなく、「違う専門性を持った職員が同じ方向を向く」
ことがチーム保育なのだと思います。
まとめ|一人で頑張る保育から、チームで支える保育へ
インクルーシブ保育というと、子どもへの支援方法に目が向きがちです。
でも、その考え方は保育者にも向けることができます。
保育士にも得意・不得意がある。
迷うことがある。
疲れることもある。
一人では難しいこともある。
だからこそ、
「助けて」と言えること。
「どうしたらいい?」と相談できること。
「一緒に考えよう」と言ってもらえること。
これらは決して弱さではありません。
むしろ、子どもを守り、保育の質を守るために必要な力です。
そして、チームで保育をするためには、保育士一人ひとりの努力だけではなく、
「困ったら相談していい」
「迷ったら一緒に考える」
「一人に責任を集中させない」
という園全体の仕組みが必要です。
子どもに「ここにいていいんだ」と感じてもらいたいのであれば、保育者自身も、
「ここにいていいんだ」
と思える園であることが大切です。
一人で抱え込まない。
小さな違和感のうちに相談する。
うまくいかなかったら、チームで振り返る。
そして、また保育を少し変えてみる。
それでいいのだと思います。
保育は、一人の保育士が完璧に完成させるものではありません。
子どもを中心に、保育者同士が支え合いながら、みんなでつくっていくものです。
一人で頑張る保育から、チームで支える保育へ。
その変化は、保育士を守るだけではなく、結果として子どもたちの安心にもつながっていくのではないでしょうか。


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