保育士として働いていると、
「これ、なんて答えればいいんだろう?」
「正直、そのお願いは難しい……」
「また提出してもらえていない……」
そんな保護者対応に悩むことがあります。
保護者対応には、マニュアルだけでは答えを出せない場面がたくさんあります。
同じ言葉をかけられても、その保護者とのこれまでの関係や家庭の状況、子どもの姿によって、望ましい対応は変わるからです。
この記事では、保育現場で起こりそうな3つの事例をもとに、
「自分だったらどう対応するだろう?」
と一緒に考えていきます。
ここで紹介する対応は、必ずこうしなければならないという「正解」ではありません。
あくまで、より良い保護者対応を考えるための一例です。
園内研修や職員会議で使用する場合は、ぜひ回答部分を読む前に一度止めて、職員同士で話し合ってみてください。
事例1「絶対に転ばないようにして。砂遊びもさせないで」
ある保護者から、こんなお願いがありました。
「お散歩に行くときに、絶対に転ばないようにしてほしいです。あと、砂遊びも不衛生なのでやめさせてください。」
あなたなら、どう答えますか?
すぐに続きを読まず、一度考えてみてください。
この要望を聞いたとき、あなたの頭には最初にどんなことが浮かんだでしょうか。
こんなふうに感じるかもしれません
「いや、絶対に転ばないようにするのは無理でしょ……」
「砂遊びまで個別に止めるの?」
「集団保育でそこまで対応するのは難しいよ……」
実際、こう感じる保育士は少なくないと思います。
そして、その気持ちのまま返答すると、
「転ばないようにできるだけ気をつけますが、絶対にというのは難しいです。砂遊びについても、○○ちゃんが遊びたがっているときに止めることになってしまうので、対応できません」
となるかもしれません。
言っている内容そのものが間違っているわけではありません。
集団保育でできることには限界がありますし、園としてできないことを曖昧にして、できるかのように伝えることも適切ではありません。
では、少しだけ順番を変えてみたらどうでしょう。
保護者の言葉の「その先」を考えてみる
同じ要望を聞いたときに、
「それだけ子どものことが心配なんだろうな」
「何か不安になる出来事があったのかな?」
「この要望の奥に、本当に気になっていることがあるのかもしれない」
と考えてみます。
そうすると、最初に出てくる言葉も変わります。
「転んでしまうと痛いですし、傷になってしまうのも心配ですよね。砂場についても、衛生面が気になっていらっしゃるんですね」
「よかったら、お母さまが今、一番ご心配されていることをもう少し聞かせていただけますか?」
この段階では、
「できます」
とも、
「できません」
とも答えていません。
まず、なぜその要望を伝えたのかを知ろうとしています。
すると、
「実は以前、転んで顔に大きな傷を作ったことがあって……」
という話が出てくるかもしれません。
あるいは、
「砂場で遊んだあとに目が腫れたことがあって、それから心配で……」
という背景があるのかもしれません。
もちろん、実際に話を聞いてみても、園では対応することが難しい要望かもしれません。
その場合は、十分に気持ちや背景を聞いたうえで、園の考えや集団保育でできる範囲を丁寧に説明していけばよいのです。
「受け止める」と「受け入れる」は違う
ここで大切なのは、
保護者の気持ちを受け止めることと、要望をすべて受け入れることは違う
ということです。
最終的に「それはできません」と伝えることになったとしても、
「できる・できない」を判断する前に、
「なぜそう思ったのだろう?」
と考えてみる。
それだけでも、保護者対応は大きく変わります。
事例2「いつも『いつもと同じです』だけで行ってしまう保護者」
朝も帰りも、とても忙しそうな保護者がいます。
子どもの様子を聞いても、
「いつもと同じです」
とだけ答え、
「お願いします」
と言って、すぐに仕事へ向かってしまいます。
お迎えのときも慌ただしく、ゆっくり話をすることはほとんどありません。
あなたなら、朝の受け入れとお迎え時にどう関わりますか?
ここでも、まず考えてみてください。
「もっと子どものことを話してほしい」
「こちらから聞いても全然話してくれない」
「保育園に任せっぱなしなのかな」
そんなふうに感じることもあるかもしれません。
だからといって、
「昨日の夜はどうでしたか?」
「朝ごはんは食べましたか?」
「睡眠時間は?」
「体調に変化はありませんか?」
と、忙しそうな朝に質問を重ねてしまったらどうでしょう。
保育士として必要な情報を知りたい気持ちは当然です。
しかし、少し違う見方もできます。
「話してくれない保護者」ではなく「今は話せない保護者」かもしれない
朝は仕事に間に合わせるため、一分一秒を争っているのかもしれません。
きょうだいの準備もしてきたのかもしれません。
家を出る直前に子どもがぐずり、ようやく園までたどり着いたのかもしれません。
「いつもと同じです」という一言も、
「子どもに関心がない」
ではなく、
「特別伝えなければならない変化はありません」
という、その保護者なりの伝え方なのかもしれません。
そう考えると、朝の対応も変わってきます。
「ありがとうございます。今日もお預かりしますね。いってらっしゃい!」
基本的な確認ができていて、特に変わった様子がなければ、無理に会話を引き延ばす必要はありません。
では、お迎えはどうでしょう。
保護者に合わせて「短くても伝わる」方法を考える
毎日長い会話をすることだけが、丁寧な保護者対応ではありません。
忙しい保護者には、短い時間だからこそ、
その子だけの具体的なエピソードを一つ伝える
という方法があります。
「今日、○○ちゃんが給食のときに『これお家でも食べたよ!』って嬉しそうに教えてくれたんですよ」
あるいは、
「今日はお友達が困っているのを見て、○○ちゃんから手伝ってくれたんです。素敵だったのでお伝えしたくて」
ほんの10秒、20秒かもしれません。
それでも、
「先生は自分の子どものことを見てくれている」
ということは伝わります。
そして、そんなやり取りを毎日少しずつ積み重ねていくことで、
ある日保護者の方から、
「そういえば最近、家でこんなことがあって……」
と話してくれるようになるかもしれません。
「話してもらう」ことを急がない
信頼関係は、一度の会話でつくるものではありません。
「話してくれないから、こちらから聞き出そう」
と考えるのではなく、
この保護者が話しやすい関係を少しずつつくっていく。
それも保護者対応の一つではないでしょうか。
事例3「また提出物が出ていない……」
いつも提出物を忘れたり、期日までに提出できなかったりする保護者がいます。
今回も、行事の参加申し込み用紙が提出期限を過ぎても出ていません。
あなたなら、どう声をかけますか?
何度も同じことが続くと、
「またか……」
「前にもお願いしたのに」
「他の家庭はちゃんと期限を守っているのに」
と思ってしまうこともあるでしょう。
そして、
「○○さん、行事の申し込み、まだ出ていません。期限が昨日までだったので、明日必ず持ってきてください」
と伝えたくなるかもしれません。
もちろん、期限を伝えること自体は必要です。
行事の準備には人数の把握が必要ですし、園全体の運営を考えれば、提出期限を守ってもらうことも大切です。
でも、ここでも一度考えてみます。
なぜ、毎回提出できないのだろう?
「だらしない保護者」
「何度言っても出してくれない保護者」
と決めてしまう前に、その理由を考えてみます。
書類を受け取ったこと自体を忘れてしまうのか。
読んではいるけれど、記入を後回しにして忘れてしまうのか。
仕事や家庭のことで余裕がないのか。
あるいは、そもそも行事への参加を迷っていて提出できていないのかもしれません。
そこで、
「○○さん、行事の参加申し込みがまだ確認できていないのですが、用紙はお手元にありますか?」
と声をかけてみます。
すると、
「あっ……すみません。たぶん家にあります」
と返ってくるかもしれません。
その場合、
「大丈夫ですよ。参加人数を確認したいので、明日までに持ってきていただけると助かります。もし用紙が見つからなければ、もう一枚お渡しできますので声をかけてくださいね」
と伝えることもできます。
あるいは、
「実は仕事の予定がまだ分からなくて、参加できるか決められなくて……」
という返答があるかもしれません。
そうなれば、必要なのは「提出してください」と繰り返すことではなく、
「そうだったんですね。いつ頃でしたら予定が分かりそうですか?こちらも準備がありますので、一緒に確認できる期限を考えましょうか」
という対応かもしれません。
目的は「注意すること」ではない
ここで一度考えたいのは、
なぜ提出してもらう必要があるのか
ということです。
目的は、
「期限を守らなかった保護者を注意すること」
ではありません。
園が必要な情報を期日までに把握し、行事を準備することです。
もちろん、何度伝えても提出されない場合には、期限や園の事情を明確に伝える必要があります。
ただ、
「また忘れた」
という過去の評価から会話を始めるのか、
「今回はどうしたら必要な情報を確認できるだろう」
と考えるのか。
その違いは、保護者との関係にも表れてくるのではないでしょうか。
3つの事例に共通していること
今回の3つは、まったく違う事例に見えます。
しかし、共通していることがあります。
それは、
目の前の言葉や行動だけで、その保護者を判断しないこと。
「無理な要求をする保護者」
「話してくれない保護者」
「提出物を出さない保護者」
そう名前をつけてしまえば、対応は簡単になります。
でも、その瞬間から、
「なぜだろう?」
と考えることをやめてしまう危険もあります。
保護者対応を考えるときには、
①まず受け止める
②背景を想像する
③必要なら尋ねる
④そのうえで園として必要なことを伝える
という順番を意識してみると、同じ内容を伝える場合でもコミュニケーションは変わってきます。
そして忘れてはいけないのが、
受け止めることと、受け入れることは違う
ということです。
保護者の要望をすべて叶えることが、良い保護者対応なのではありません。
園としてできないことは、できないと伝える。
守ってもらう必要があることは、きちんと伝える。
そのうえで、
「どうして、この保護者はこう言ったのだろう?」
と一度考えてみることが大切なのだと思います。
園内研修で使うなら「答え合わせ」をしない
この記事を園内研修で使う場合、ぜひ3つの事例について、
「この回答が正解です」
という終わり方にはしないでください。
例えば事例1なら、
「保護者が『とにかく怪我は絶対にさせないでください』とさらに強く求めてきたら?」
事例2なら、
「子どもの様子に少し気になる変化があったら、忙しそうな保護者にどう伝える?」
事例3なら、
「翌日になっても提出されなかったら、次はどうする?」
と、一歩先まで職員同士で考えてみるのもおすすめです。
保護者対応は、用意された例文を覚えるだけでは身につきません。
なぜその言葉を選ぶのか。
相手は何を心配しているのか。
園として伝えるべきことは何なのか。
それを考えることそのものが、保護者対応を学ぶことにつながります。
本当の「正解」は現場にあります
この記事で紹介した対応例は、あくまで一例です。
同じ言葉をかけてきた保護者でも、その家庭の状況や子どもの姿、これまで園と築いてきた関係によって、望ましい対応は変わります。
だから、
「この言葉を使えば正解」
というものはありません。
この記事を一つの材料にしながら、
「自分たちの園ならどうする?」
をぜひ職員同士で話してみてください。
目の前の子どもと保護者を日々見ている皆さんだからこそ見つけられる答えがあります。
本当の正解は、その現場の中にあります。
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