ヒヤリハットが出ない園ほど危ない理由|事故が起こる前に気づける園と気づけない園の差

保育内容
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この記事でわかること

・ヒヤリハットとは何か
・ヒヤリハットが少ない園を手放しで安心できない理由
・事故を未然に防ぐ園が見ているポイント
・ヒヤリハットを報告した後に何をすればいいか
・園長や主任がつくるべき安全文化

「うちの園はヒヤリハットが少ない」は本当に良いことなのか

「うちの園は、ヒヤリハットがほとんど出ません」

園長や主任、法人の担当者から、そんな話を聞くことがあります。

もちろん、本当に危険な場面が少なく、安全に保育できているのであれば、それはとても良いことです。

ただ、園長としてさまざまな保育現場を見てきた中で、私はヒヤリハットが極端に少ない園を見ると、少し気になります。

なぜなら、

「危険が起きていない」

のではなく、

「危険に気づいていない」

「気づいていても共有されていない」

可能性もあるからです。

ヒヤリハットの件数だけを見て、

「少ないから安全」

とは言い切れません。

むしろ大切なのは、

「小さな危険に気づけているか」

「気づいたことを言葉にできているか」

「その後、園として改善できているか」

だと思います。

ヒヤリハットとは?

ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、

「ヒヤッとした」

「ハッとした」

「危なかった」

と感じた出来事のことです。

例えば、

・子どもが転びそうになったが、保育者が支えた
・棚の角にぶつかりそうになった
・小さな物を口に入れる前に気づいた
・子ども同士がぶつかりそうになった
・扉に指を挟みそうになった

といった場面です。

実際にけががなければ、

「何も起きなかったから大丈夫」

と考えてしまうこともあります。

しかし、安全管理の視点では、この「何も起きなかった場面」にこそ大切な情報があります。

今回はたまたま事故にならなかった。

では、次も同じように防げるでしょうか。

ヒヤリハットは、そのことを考えるための材料になります。

ハインリッヒの法則から考える「小さな危険」の大切さ

安全管理の分野では、「ハインリッヒの法則」と呼ばれる考え方がよく知られています。

重大な事故の背景には、軽微な事故や、事故には至らなかった多くの出来事が存在するという考え方です。

「1:29:300」という数字で紹介されることがありますが、この数字をそのまま保育事故に当てはめればよいというものではありません。

大切なのは、

「重大な事故だけを見るのではなく、その前に起きている小さな危険にも目を向ける」

という考え方です。

保育現場でも、

「今回は大丈夫だった」

「けがをしなかったから問題ない」

で終わらせず、

「なぜ危ない場面が起きたのか」

を振り返ることが事故防止につながります。

ヒヤリハットが少ない=安全とは限らない

ヒヤリハットが少ない園には、大きく分けて二つの可能性があります。

一つは、本当に安全管理が行き届いていて、危険な場面が少ない園。

もう一つは、危険な場面があっても、

「これくらいならいいか」

「事故になっていないし」

と見過ごされている園です。

この違いはとても大きいと思います。

例えば、

子どもが棚によじ登ろうとしていた。

保育者がすぐに気づいて止めた。

その場では何も起きなかった。

ここで、

「危なかったね」

だけで終わるのか。

それとも、

「なぜ登ろうとしたのか」

「棚の場所は適切だったか」

「子どもが登りたくなる環境になっていなかったか」

「同じことがまた起きる可能性はないか」

まで考えるのか。

事故を防ぐためには、後者の視点が必要です。

危険なのは「ヒヤリハットがない園」ではなく「言えない園」

私は、ヒヤリハットが提出されること自体を悪いことだとは考えていません。

むしろ怖いのは、

「書いたら怒られる」

「自分のミスだと思われる」

「評価が下がりそう」

「面倒だから出さない」

「クラスの中だけで済ませよう」

という空気がある園です。

この状態では、ヒヤリハットが少ないのではありません。

出せないだけです。

そして、ヒヤリハットを出せない園では、小さな事故や違和感も表に出にくくなります。

安全管理では、

「問題が起きないこと」

だけではなく、

「問題が起きそうだったときに、きちんと共有できること」

も大切です。

ヒヤリハットは職員を責めるためのものではない

職員がヒヤリハットを書くことに抵抗を感じる理由の一つが、

「自分のミスを書いているように感じる」

ことだと思います。

例えば、

「子どもが転びそうになった」

というヒヤリハットが出たときに、

「なんでちゃんと見ていなかったの?」

と最初に言われたら、その職員は次から報告しづらくなります。

もちろん、職員の動きに改善が必要なこともあります。

それでも、最初に見るべきなのは、

「誰が悪かったのか」

ではなく、

「なぜ、この状況が起きたのか」

です。

例えば、

・玩具棚の配置は適切だったか
・子どもの動線が重なっていなかったか
・職員の立ち位置に無理がなかったか
・忙しい時間帯に人手が集中していなかったか
・活動の切り替えが一斉になっていなかったか

など、環境や仕組みの問題が隠れていることがあります。

ヒヤリハットは、個人を評価するための材料ではありません。

園全体の保育や環境を見直すための材料です。

ヒヤリハットが出たら「人・物・動線・時間」で考える

ヒヤリハットが出たとき、私は一つの視点だけで原因を考えないようにしています。

分かりやすいのが、

「人・物・動線・時間」

の4つです。

① 人

職員の配置や役割に無理はなかったかを見ます。

例えば、

・誰がどこを見るのか決まっていたか
・一人の職員に子どもが集中していなかったか
・フォローに入れる職員がいたか
・情報共有ができていたか

といった点です。

単純に、

「もっとよく見てください」

で終わらせないことが大切です。

② 物

保育室にある物や設備を見ます。

例えば、

・棚の高さは適切だったか
・危険な物が子どもの手の届く場所になかったか
・玩具の量が多すぎなかったか
・家具の角や扉などに危険がなかったか

環境を変えることで、同じ事故を防げることもあります。

③ 動線

子どもと職員がどのように動いていたかを見ます。

例えば、

・子ども同士の動きが重なっていなかったか
・トイレや手洗いへの移動が集中していなかったか
・活動の切り替え時に人が一か所へ集まっていなかったか
・職員から見えない場所ができていなかったか

保育事故は、動線が重なる場面で起きることもあります。

④ 時間

「いつ起きたか」も大切です。

例えば、

朝の受け入れ。

給食前。

午睡前後。

お迎えの時間帯。

こうした時間は、子どもの動きも職員の業務も集中しやすくなります。

同じ種類のヒヤリハットが同じ時間帯に続いているなら、個人の問題ではなく、園の一日の流れそのものに原因があるかもしれません。

例えば「午睡明けにぶつかりそうになった」としたら

一つ具体的に考えてみます。

午睡明け、起きた子ども同士が走ってぶつかりそうになった。

事故にはならなかった。

このとき、

「走らないように声を掛けましょう」

だけで終わると、また同じことが起きる可能性があります。

そこで、

なぜ走ったのか。

起きた子どもが一斉に動いていなかったか。

着替える場所とトイレへの動線が重なっていなかったか。

寝ている子と起きている子のスペースを分けられないか。

職員の立ち位置はどうだったか。

起床後の流れを子どもが理解できていたか。

まで考えてみます。

すると、

「子どもが走った」

という一つの出来事から、保育環境や職員配置の見直しにつながります。

これがヒヤリハットを活用する意味だと思います。

ヒヤリハットは提出して終わりではない

ヒヤリハット用紙を書いたことで、事故防止が終わるわけではありません。

大切なのは、その後です。

私は次のような流れで考えると分かりやすいと思っています。

1.何が起きたのか事実を確認する
2.なぜ起きたのかを考える
3.改善できることを決める
4.職員間で共有する
5.実際に改善できているか後から確認する

例えば、

「棚の位置を変えよう」

と決めたのであれば、実際に変更する。

そして数日後、

「変えてみてどうだった?」

と確認する。

そこまで行って、初めてヒヤリハットが改善につながります。

提出すること自体を目的にしてしまうと、記録だけが増えて現場は変わりません。

安全管理を丁寧に行っている園ほど、小さな違和感を共有している

私がこれまで見てきた中では、安全管理を丁寧に行っている園ほど、

「これ、少し危なかったよね」

という小さな出来事を職員同士で共有している印象があります。

必ずしも、ヒヤリハットの提出数が多ければ安全ということではありません。

ただ、

「危険に気づいたら伝える」

「小さいうちに共有する」

という文化がある園では、事故になる前に環境を変えられる可能性が高くなります。

その積み重ねによって、

・環境を見る力
・子どもの動きを予測する力
・職員配置を見る力
・危険な時間帯に気づく力

も少しずつ育っていきます。

ヒヤリハットを書くことそのものより、

「危険を見つける目を園全体で育てる」

ことが大切です。

園長・主任がつくるべきなのは「報告しやすい空気」

職員がヒヤリハットを報告できるかどうかは、園長や主任の反応にも大きく左右されます。

例えば職員が、

「今日、こんなことがあって危なかったです」

と話してきたとき。

最初の一言が、

「なんで見ていなかったの?」

なのか。

それとも、

「教えてくれてありがとう。事故にならなくてよかったね」

なのか。

この違いは大きいと思います。

もちろん、その後に必要な指導や確認は行います。

ただ、報告したこと自体を責めてしまえば、

「次は言わない方がいい」

という学習につながってしまいます。

私は、

「気づいてくれてありがとう」

「次に起きないように一緒に考えよう」

という空気をつくることが、安全管理ではとても大切だと思っています。

「気をつけます」で終わらせない

ヒヤリハットの振り返りでよくあるのが、

「今後は気をつけます」

という改善策です。

もちろん、注意することは必要です。

ただ、それだけでは具体的な改善になりません。

例えば、

「子どもが棚にぶつかりそうになった」

のであれば、

「よく見る」

ではなく、

棚の位置を変える。

動線を広くする。

職員の立ち位置を変える。

子どもが集中する時間帯を見直す。

といった具体的な改善につなげることが大切です。

人はいつでも完璧に注意し続けられるわけではありません。

だからこそ、

「注意しなくても事故が起こりにくい環境」

をつくる視点が必要です。

園で確認したい安全文化チェックリスト

園の安全管理を振り返るときは、次のような点を確認してみてください。

・ヒヤリハットを出しやすい雰囲気がある
・提出件数そのものを責めていない
・クラスの中だけで終わらず、必要な情報を園全体で共有している
・「誰が悪いか」だけで原因を考えていない
・人、物、動線、時間など複数の視点から原因を見ている
・改善策が具体的になっている
・改善した後に、本当に変わったか確認している
・園長や主任が報告を歓迎している

すべてできていなければ安全ではない、という話ではありません。

大切なのは、

「どこをもう少し改善できるだろう」

と園全体で考えることです。

ヒヤリハットは園の安全文化を映す

ヒヤリハットの件数だけを見ても、その園が安全かどうかは分かりません。

むしろ見たいのは、

小さな危険に気づけているか。

それを安心して共有できているか。

報告した後に改善できているか。

という部分です。

職員が、

「こんなことを報告したら怒られるかな」

ではなく、

「次の事故を防ぐために伝えておこう」

と思える園。

私は、そうした園の方が安全文化は育ちやすいと思います。

まとめ|本当に安全な園は、小さな危険を見逃さない

ヒヤリハットが少ないからといって、それだけで安全な園とは言えません。

本当に大切なのは、

「事故になる前の小さなサインに気づけること」

です。

そして、

その気づきを共有する。

なぜ起きたのかを考える。

環境や仕組みを変える。

変えた後に確認する。

この積み重ねが事故防止につながっていきます。

ヒヤリハットは、職員の失敗を集めるためのものではありません。

園の中にある危険を見つけ、子どもたちがより安全に過ごせる環境へ変えていくための大切な材料です。

だからこそ、園長や主任がつくるべきなのは、

「ミスをしない職員だけが評価される園」

ではなく、

「危険に気づいたら安心して言える園」

だと思います。

事故は、起きてから振り返るだけでは遅いことがあります。

その前にある、

「ちょっと危なかった」

「いつもここが気になる」

「この時間帯は少し怖い」

という小さな声を拾う。

それが、事故を防ぐ安全管理の第一歩ではないでしょうか。

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