保育園の一日の中でも、保育者が悩むことの多い時間の一つが「食事」ではないでしょうか。
「この子、野菜を全然食べない」
「白いご飯しか食べない」
「いつも食べるのが遅い」
「もう少し食べてほしいけれど、無理に食べさせていいのかな?」
「好き嫌いが多いけれど、このままで大丈夫なのかな?」
食事は毎日のことだからこそ、保育者としても気になることがたくさんあります。
子どもに元気に育ってほしい。
いろいろな食材を経験してほしい。
少しでも多く食べてほしい。
そんな思いから、
「一口だけ食べてみよう」
「これを食べたらデザートにしよう」
「全部食べたら遊びに行こうね」
と声をかけることもあるでしょう。
もちろん、そこには子どもを思う気持ちがあります。
しかし、食事の場面では、
「食べさせること」よりも、「食べることを嫌いにさせないこと」
を大切にしたいと思います。
今回は、子どもの好き嫌いや食べる量について、保育者がどのように考え、どのように関わっていけばよいのかを整理します。
- 保育園の食事で一番大切にしたいこと
- 「好き嫌いが多い=わがまま」ではない
- 食べられない理由を無理に聞き出す必要はない
- 「一口だけ食べてみよう」は、本当に必要?
- 「食べなさい」と言われ続けると、食事が楽しくなくなる
- 完食を目標にしすぎない
- 「最初から全部食べなくてもいい」という選択肢
- 食べ物を「ご褒美」にしない
- 「食べない子」ではなく、「食べられない理由がある子」と考える
- 食事の時間こそ「子どもの主体性」を大切にする
- 保育士が「食べさせなきゃ」と思いすぎないことも大切
- 食事指導で迷った時に考えたい5つのこと
- まとめ|「食べさせる保育」から「食べる力を育てる保育」へ
- 内部リンク「インクルーシブ保育とは?」「自分は絶対に不適切保育をしない」と言い切れますか?「子どもの主体性とは?」
保育園の食事で一番大切にしたいこと
まず考えたいのは、
「食事の時間は、何のためにあるのか?」
ということです。
もちろん、食事には栄養を摂るという大切な役割があります。
しかし、保育園の食事はそれだけではありません。
友達と一緒に食べる。
食材に触れる。
匂いを感じる。
食感を知る。
自分で食べる。
「おいしい」と感じる。
時には、「これは苦手だな」と感じる。
こうした経験そのものが、子どもの食に対する興味や意欲につながっていきます。
だからこそ、保育園の食事では、
「全部食べられたか」だけで子どもの食を評価しないこと
が大切です。
完食できた。
残さなかった。
苦手な野菜を食べた。
もちろん、それも一つの成長です。
でも、それだけが「良い食事」ではありません。
「今日は自分で最後まで食べられた」
「いつもは触らない食材を触ってみた」
「匂いを嗅いでみた」
「少しだけ口にしてみた」
「友達と楽しく食べられた」
こうした姿も、子どもの食に関する大切な経験です。
「好き嫌いが多い=わがまま」ではない
子どもが特定の食材を嫌がると、
「好き嫌いが多いな」
「わがままなのかな」
と考えてしまうことがあります。
しかし、子どもが食べられない理由は一つではありません。
味が苦手なのかもしれません。
匂いが苦手なのかもしれません。
食感が苦手なのかもしれません。
見た目が嫌なのかもしれません。
以前食べた時の経験が影響しているのかもしれません。
口の中に入れた時の刺激が強いのかもしれません。
そもそも、今はお腹が空いていないのかもしれません。
その子にとっては、
「食べない」
のではなく、
「今は受け入れることが難しい」
という状態なのかもしれません。
ここを、
「食べなさい」
で終わらせてしまうのではなく、
「この子にとって、何が難しいのだろう?」
と考えてみる。
それが、保育者の大切な視点だと思います。
食べられない理由を無理に聞き出す必要はない
例えば、子どもが苦手な食材を口から出したとします。
「どうして食べないの?」
「何が嫌なの?」
「一口だけでも食べてみようよ」
と、理由を聞いたり、食べることを促したりしたくなるかもしれません。
もちろん、子どもの気持ちを知ろうとすることは大切です。
ただ、子ども自身も、
「なぜ嫌なのか」
をうまく説明できないことがあります。
「なんとなく嫌」
「口に入れたくない」
ということもあります。
そんな時に、何度も理由を聞かれると、子どもにとっては「食べられない自分を責められている」ように感じることもあります。
だからこそ、
「これは嫌なんだね」
と気持ちを受け止めた上で、
「じゃあ、ここに置いておこうか」
「ティッシュに包んでここに置いておこうね」
など、具体的にどうすればよいのかを伝えることも大切です。
好き嫌いをその場でなくそうとするのではなく、
「食べられない時に、どう折り合いをつけるか」
を一緒に経験する。
これも食育の一つではないでしょうか。
「一口だけ食べてみよう」は、本当に必要?
保育現場では、
「一口だけでも食べてみよう」
という声かけをすることがあります。
「全部食べなくてもいいから、一口だけ」
という考え方です。
しかし、ここも一度立ち止まって考えてみたいところです。
その「一口」は、
子どもが自分から挑戦している一口でしょうか。
それとも、
「先生に言われたから仕方なく食べる一口」
でしょうか。
同じ一口でも、意味は大きく違います。
食べることへの興味があり、
「ちょっと食べてみようかな」
と自分から口にするのであれば、とても大切な経験になります。
一方で、
「食べないと先生に怒られる」
「食べないと遊べない」
「先生が見ているから食べなければいけない」
という状態になってしまうと、食事そのものが苦痛になってしまう可能性があります。
だから、
「一口食べさせること」よりも、「食べてみようかな」と思える環境をつくること
を大切にしたいのです。
「食べなさい」と言われ続けると、食事が楽しくなくなる
食事のたびに、
「食べなさい」
「残さないで」
「一口だけ」
「まだ食べてないよ」
と言われ続けたら、大人でも食事が楽しくなくなるのではないでしょうか。
子どもにとっても同じです。
食事の時間になると、
「また食べないと怒られる」
「先生が見ている」
「残したらダメ」
という気持ちになってしまえば、食事は「楽しい時間」ではなくなってしまいます。
さらに、緊張してしまうことで、余計に食べにくくなることもあります。
だからこそ、
「食べさせる」
という視点だけではなく、
「安心して食べられる状態をつくる」
という視点が必要です。
完食を目標にしすぎない
保育園では、
「今日は全部食べられたね!」
という声かけをすることがあります。
これ自体が悪いわけではありません。
ただし、
「完食=良いこと」
「残す=悪いこと」
という関係になってしまわないように注意したいところです。
子どもによって食べられる量は違います。
その日の体調も違います。
活動量も違います。
朝ごはんをどれくらい食べてきたかによっても違います。
同じ年齢の子どもでも、必要な量は同じではありません。
だからこそ、
「昨日は全部食べたのに、今日は残した」
ということだけで、その子の食欲や食事への意欲を判断する必要はありません。
「最初から全部食べなくてもいい」という選択肢
例えば、量が多いことで食べること自体が嫌になってしまう子がいるとします。
その場合、
「頑張って全部食べよう」
ではなく、
「多かったら少し減らそうか」
と子どもと相談することもできます。
ここで大切なのは、
子ども自身が食べる量について考えられること
です。
最初から大人が、
「この子は食べないから少なくしておこう」
と決めてしまうのではなく、
「これくらいなら食べられそう?」
と確認する。
そして、減らした分を別皿によけておく。
すると、
「やっぱりもう少し食べたい」
と思った時に、自分から追加することができます。
これは単に「残飯を減らす」という話ではありません。
自分のお腹や気持ちを感じながら、自分で食べる量を選択する経験
につながります。
食べ物を「ご褒美」にしない
もう一つ、意識したいのが、
「これを食べたら、果物をあげるね」
「全部食べたらデザートにしよう」
といった交換条件です。
これも、つい使ってしまいがちな声かけです。
もちろん、保育士としては、
「まずご飯を食べてほしい」
という思いがあります。
しかし、
「嫌いなものを食べたら好きなものがもらえる」
という構造が続くと、
「こっちは嫌なもの」
「こっちはご褒美」
というイメージにつながってしまう可能性があります。
食べ物は、できるだけ、
「好きなもの」と「嫌いなもの」という上下関係をつくらず、それぞれの食材を一つの食経験として扱う
ことを意識したいところです。
「食べない子」ではなく、「食べられない理由がある子」と考える
保育では、子どもの姿をどう捉えるかによって、保育者の関わり方が大きく変わります。
「この子は食べない子」
と考えるのか。
それとも、
「この子は、今は何か理由があって食べにくいのかもしれない」
と考えるのか。
この違いは大きいと思います。
例えば、
野菜を食べない。
↓
「野菜嫌いな子」
で終わるのではなく、
↓
「どんな食感が苦手なんだろう?」
「匂いはどうだろう?」
「大きさを変えたらどうだろう?」
「周囲の環境はどうだろう?」
「今日は体調が悪くないかな?」
と考えてみる。
子どもの行動には、何らかの理由があります。
その理由を一緒に探していくことも、保育者の専門性ではないでしょうか。
食事の時間こそ「子どもの主体性」を大切にする
食事は、保育者が子どもに食べさせる時間ではありません。
子ども自身が、
「何を食べよう」
「どれくらい食べよう」
「これは苦手だな」
「これはおいしいな」
と感じ、考える時間でもあります。
だからこそ、
「全部食べた?」
だけではなく、
「自分で食べられたかな?」
「食事を楽しめたかな?」
「安心して過ごせたかな?」
「自分で選ぶことができたかな?」
という視点も大切にしたいと思います。
保育士が「食べさせなきゃ」と思いすぎないことも大切
保育士は、子どものことを真剣に考えているからこそ、
「この子にもう少し食べてほしい」
「栄養が心配」
「好き嫌いをなくしてあげたい」
と思います。
その気持ちは決して間違いではありません。
むしろ、子どもの成長を願っているからこその気持ちです。
ただ、
その思いが強くなりすぎて、子どもにとって食事が苦痛になっていないか
は、時々振り返ってみる必要があります。
保育士ができるのは、
「食べさせること」
ではなく、
「食べてみようと思える環境をつくること」
です。
そして、その環境の中で食べるかどうかを決めるのは、子ども自身です。
食事指導で迷った時に考えたい5つのこと
最後に、食事の場面で迷った時に、保育士自身が振り返るポイントをまとめます。
①「食べさせること」が目的になっていないか
完食させることだけが目的になっていないかを考えてみます。
② 子どもが安心して食べられているか
「怒られるかもしれない」という緊張の中で食べていないかを見てみます。
③ 食べない理由を考えているか
「わがまま」「好き嫌いが多い」で終わらせず、その背景を考えます。
④ 子ども自身が選べる場面があるか
量をどうするか、何から食べるかなど、自分で考えられる余地をつくります。
⑤ 食事の時間を楽しめているか
最も大切なのは、ここかもしれません。
「今日、全部食べた?」
だけではなく、
「今日の食事、楽しかったかな?」
という視点を持ってみましょう。
まとめ|「食べさせる保育」から「食べる力を育てる保育」へ
子どもの好き嫌いや食べる量に悩むことは、保育士として決して珍しいことではありません。
子どもに元気に育ってほしいからこそ、
「もう少し食べてほしい」
と思うのは自然なことです。
ただ、食事の時間に私たちが大切にしたいのは、
完食させることだけではありません。
食べることを楽しむ。
自分の体や気持ちを知る。
自分で食べるものや量を考える。
いろいろな食材に触れる。
「食べてみようかな」と思った時に、自分から挑戦する。
こうした経験を積み重ねていくことが、将来の「食べる力」につながっていきます。
だからこそ、
「どうしたらこの子に食べさせられるだろう?」
ではなく、
「どうしたら、この子が安心して食べることができるだろう?」
と考えてみる。
「食べなさい」と言う前に、
「何が食べにくいのだろう?」
と考えてみる。
「全部食べよう」と言う前に、
「この子にとって、今必要な量はどれくらいだろう?」
と考えてみる。
こうした小さな視点の変化が、子どもにとって安心できる食事の時間をつくっていくのだと思います。
食事は、毎日の生活の中にあります。
だからこそ、
「食べられたか」だけではなく、「どんな気持ちで食べたか」
を大切にできる保育を考えていきたいですね。


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