保育の現場で「子どもの主体性を大切にする」という言葉を聞く機会が増えました。
しかし、実際の保育の中では、
「主体性を大切にするって、具体的にどういうこと?」
「子どものやりたいことを全部認めることなの?」
「待つことが大切と言われても、時間に追われる現場では難しい」
そんな葛藤を感じている保育者も多いのではないでしょうか。
子どもの主体性を尊重する保育とは、子どもの言うことをすべて受け入れることではありません。
子どもが自分で考え、挑戦し、失敗し、またやってみようとする過程を大切にすることです。
そして、そのために保育者に求められる大きな力の一つが、
「待つ力」
なのです。
待てる保育者のもとで、子どもは安心して育つ
子どもは、大人と同じようにはできません。
身体の発達も途中です。
言葉の発達も途中です。
感情をコントロールする力も、まだ育っている途中です。
私たち大人は、経験があります。
靴を履くこと。
着替えること。
気持ちを言葉で伝えること。
失敗した時に切り替えること。
しかし、子どもたちは今まさに、その力を獲得している途中なのです。
だからこそ、大人が子どもの発達段階を理解し、余裕を持って関わることが重要になります。
待ってもらえる経験。
見守ってもらえる経験。
自分でできたという経験。
それらが、子どもの自信や自己肯定感につながります。
子どもを待つことは、放置することではない
「待つ保育」という言葉を聞くと、
「何もしないことなのでは?」
と思われることがあります。
しかし、待つことと放置することは全く違います。
待つ保育とは、
子どもの姿を見ること。
今どこで困っているのか考えること。
必要なタイミングで援助すること。
です。
保育者は、ただ見ているのではありません。
子どもの成長を信じながら、必要な時に手を差し伸べる専門的な関わりをしています。
1歳児の靴下を履く姿から考える「待つ」ということ
例えば、今あなたが働いている園を想像してください。
散歩に行く時間です。
1歳児が玄関で靴を履こうとしています。
しかし、その子は靴下を自分で履きたい。
何度も挑戦します。
でも、うまくできません。
言葉でも、
「手伝って」
「難しい」
と伝えることはまだできません。
時間は迫っています。
この時、あなたの園ではどのような関わりをしますか?
①「時間だから」と保育者がすぐに履かせる
②嫌がっても無理に進める
③そのままバギーに乗せてしまう
④子どもの様子を見ながら待ち、必要な部分だけ援助する
正解は一つではありません。
活動時間や集団の状況によって判断も必要です。
しかし、大切なのは、
「この子は何を経験しようとしているのか」
を見ることです。
この子は、靴下を履けない子なのではありません。
「自分でやってみたい」
という意欲を持って挑戦している途中なのです。
その気持ちをどう支えるか。
そこに保育者の専門性があります。
5歳児の折り紙選びから考える主体性
もう一つ考えてみましょう。
5歳児の制作活動。
好きな色の折り紙を選ぶ時間です。
友だちは次々に色を選び、制作を始めています。
しかし、ある子は10分経っても悩んでいます。
「どの色にしよう」
「やっぱりこっちかな」
「でも、やっぱり違うかな」
あなたならどう関わりますか?
「早く決めよう」
「みんな待っているよ」
と声をかけるでしょうか。
それとも、
「何色で迷っているの?」
「どちらも素敵だね」
「決めるまで少し考えてみようか」
と寄り添うでしょうか。
もちろん、集団活動では時間の管理も必要です。
しかし、この子が経験しているのは、
単なる「色選び」ではありません。
自分で考えること。
選択すること。
決めること。
自分の気持ちと向き合うこと。
それも大切な成長の一つです。
保育の質を高めるのは「正解探し」ではなく振り返り
主体性を大切にする保育に、絶対的な答えはありません。
同じ場面でも、
年齢。
子どもの発達。
その日の状態。
集団の状況。
によって、必要な関わりは変わります。
だからこそ大切なのは、
「今日の関わりはどうだったか」
「もっと良い援助はなかったか」
「子どもの気持ちを十分に見られていたか」
を振り返ることです。
保育は、毎日の小さな実践と振り返りによって質が高まります。
待つ力は、保育者だけではなく大人に必要な力
子どもを待つことは、保育者だけの課題ではありません。
家庭でも同じです。
親も、
「早くして」
「もういいから」
と言いたくなる瞬間があります。
忙しい毎日の中では、余裕を持つことは簡単ではありません。
しかし、子どもは大人のようにはできません。
成長の途中だからです。
身体も。
心も。
言葉も。
すべて発達の途中です。
そのことを理解し、大人が少し余裕を持つことで、子どもは安心して挑戦できます。
安心できる環境の中でこそ、子どもの主体性は育ちます。
子どもの主体性を育てるために、保育者同士で語り合うこと
主体性を大切にする保育を進めるためには、職員同士の対話が欠かせません。
「この場面、どう関わった?」
「他に方法はあったかな?」
「子どもの姿をどう捉える?」
こうした振り返りを積み重ねることが、保育の質を高めていきます。
一人の経験や考えだけではなく、チームで考えることで新しい視点が生まれます。
子どもの成長を信じて待てる保育者へ
子どもは、大人が思っている以上に自分で成長する力を持っています。
保育者の役割は、その力を奪うことではありません。
必要な時に支えること。
挑戦できる環境を作ること。
失敗しても大丈夫と思える安心を与えること。
それが、子どもの主体性を育てる保育です。
「早くできるようにする」
だけではなく、
「自分でできるようになるまで支える」
という視点。
今、私たち保育者に求められているのは、子どもを変える保育ではなく、子どもの育つ力を信じる保育なのではないでしょうか。
内部リンク
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