「子ども主体の保育」と人員配置の難しさ|一人ひとりに寄り添う保育を支える人的環境を考える

保育内容
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「子ども一人ひとりの気持ちに寄り添いましょう」

「子どもの主体性を大切にしましょう」

「子どもの人権を尊重した保育をしましょう」

現在の保育現場では、このような言葉を耳にする機会が増えました。

もちろん、どれも大切なことです。

子どもを一人の人間として尊重し、その思いや願いを受け止めながら、一人ひとりの発達や生活に合わせて保育を行っていく。

現在の保育では、こうした考え方がより大切にされています。

一方で、実際に現場に立っていると、私は一つの疑問を感じることがあります。

「今、私たちが求められている保育を、現在の人員配置だけで十分に支えることができるのだろうか」

という疑問です。

子ども主体の保育を大切にしようとすればするほど、一人ひとりを見る時間が必要になります。

しかし、保育者が同時に見なければならない子どもの人数が急に減るわけではありません。

ここに、現在の保育現場が抱える難しさの一つがあると感じています。

この記事では、現役園長として、子ども主体の保育と人員配置の関係について考えていきます。

この記事でわかること

・子ども主体の保育と人員配置の関係
・配置基準を満たすことと、丁寧な保育ができることの違い
・子ども主体の保育で保育者に求められること
・人的環境を整えることの重要性
・園長や主任に求められる役割

保育士の配置基準は実際に見直されている

まず、誤解のないようにしておきたいことがあります。

「国は昔から何も変えていない」

という話ではありません。

保育士の配置基準は、実際に改善されています。

2024年度からは、3歳児について従来の子ども20人につき保育士1人から15人につき1人へ、4・5歳児については30人につき1人から25人につき1人へと改善されました。

特に4・5歳児については、長年続いてきた配置基準が見直された大きな変更です。

これは、保育現場を取り巻く状況の変化や、保育の質、安全性などを考えるうえでも大きな前進だと思います。

一方で、配置基準が改善されても、

「それでも人が足りない」

と感じる保育現場があります。

なぜなのでしょうか。

私は、その理由を単純な人数だけの問題として考えることはできないと思っています。

「配置基準を満たしている」と「丁寧な保育ができる」は同じではない

現在の配置基準では、3歳児は子ども15人につき保育士1人、4・5歳児は25人につき保育士1人が一つの基準となっています。

もちろん、基準を守ることは大前提です。

ただ、

「配置基準を満たしているから、十分な保育環境が整っている」

とは限りません。

現在、保育者にはさまざまな役割が求められています。

・子どもの安全を確認する
・一人ひとりの気持ちを受け止める
・子ども同士の関係を見守る
・発達やその日の状態を捉える
・必要なときには個別に関わる
・子どもが考えたり選択したりすることを支える
・保護者とコミュニケーションを取る
・保育の記録を残す
・職員同士で情報を共有する

さらに、事故防止や不適切保育の防止についても高い意識が求められます。

これらを同時に行わなければならない場面もあります。

そう考えると、

「人数として基準を満たしていること」

と、

「一人ひとりに丁寧に関われる状態であること」

は、分けて考える必要があります。

配置基準の詳しい考え方や年齢別の人数については、「認可保育園の保育士配置基準とは?」の記事で詳しく紹介しています。

保育の考え方が変われば、保育者に求められることも変わる

以前の保育と現在の保育を、単純に比較することはできません。

昔の保育がすべて悪かったわけでもありません。

一斉に活動することにも意味がありますし、保育者が全体をまとめながら集団を動かすことも、必要な場面があります。

ただ、現在はそれだけではありません。

子ども一人ひとりの思いや発達を捉え、必要に応じて環境を変えたり、関わり方を変えたりしながら保育を行うことが求められています。

「みんな同じようにできるようにする」

だけではなく、

「この子は今、何を感じているのだろう」

「なぜ、この行動をしているのだろう」

「この子にとって今必要な関わりは何だろう」

と考えることが必要になります。

これは、決して簡単なことではありません。

子どもの表情や言葉、行動、その前後の状況まで見ながら考える必要があります。

そして当然ですが、保育者が同時に見る子どもの人数が増えれば、それだけ把握しなければならない情報も増えていきます。

「子ども主体」は保育者にとって簡単な保育ではない

私はここを、もっと保育現場で共有してもよいのではないかと思っています。

子ども主体の保育は、保育者が何もしなくてよい保育ではありません。

むしろ、判断しなければならないことが増える場面があります。

例えば、一斉に、

「今から散歩に行きます」

と声を掛ければ、全員を同じ方向へ動かすことはできます。

しかし、

「今日は散歩に行きたくない」

という子どもがいたとき。

その気持ちを受け止めようとすれば、

「なぜ行きたくないのだろう」

「何か不安なことがあるのかな」

「どうすれば安心して参加できるだろう」

「本当に今、全員が同じ行動をする必要があるのだろうか」

と考える必要があります。

その間にも、他の子どもたちの安全を見なければなりません。

散歩へ行く子どもたちの準備もあります。

他の職員との連携も必要になります。

一人の子どもの思いを丁寧に受け止めることと、集団全体の安全や生活を支えること。

その両方を考える必要があります。

だからこそ、子ども主体の保育には、保育者の高い専門性とともに、それを支えられる環境が必要だと思います。

子ども主体の保育には「余白」が必要

子どもの思いを受け止めるためには、少し立ち止まれる「余白」が必要です。

子どもが何かを伝えようとしているときに、話を聞く。

遊びが広がっているときに、予定を少し調整できないか考える。

トラブルが起きたときに、すぐ大人が答えを出すのではなく、子ども同士のやり取りを少し見守る。

困っている子どもがいたときに、

「この子は今、何に困っているのだろう」

と考える。

こうした保育には時間が必要です。

しかし、保育者が常に、

「次の活動に進まなければ」

「他の子も見なければ」

「時間がない」

という状態であれば、その余白をつくることは難しくなります。

子ども主体の保育を考えるとき、保育者の関わり方だけを見るのではなく、

「保育者が立ち止まって考えられる環境になっているか」

まで考える必要があると思います。

だからこそ「人的環境」を一緒に考える必要がある

ここで大切になるのが、「人的環境」という考え方です。

保育環境というと、玩具や遊具、保育室の広さ、絵本、自然環境などを思い浮かべるかもしれません。

しかし、保育園では、そこにいる「人」も子どもの育ちを支える大きな環境です。

保育者が疲れ切っている。

困ったときに相談できる職員がいない。

一人で子どもの対応を抱え込んでいる。

職員同士で情報が共有されていない。

子ども一人ひとりを見る余裕がない。

こうした状況では、どれだけ素晴らしい保育理念を掲げても、それを実践することは難しくなります。

人的環境は、単純な職員数だけで決まるものでもありません。

誰がどの役割を担うのか。

困ったときにフォローできるのか。

子どもの情報を共有できているのか。

職員同士で保育について相談できるのか。

こうした人と人との関係も含めて考える必要があります。

人的環境については、「保育における人的環境とは?|具体例でわかる保育者の役割と子ども主体の環境づくり」で詳しく紹介しています。

「もっと人がいればできる」で終わらせてはいけない

ここで一つ注意したいことがあります。

「もっと人がいれば、良い保育ができる」

これは一面ではその通りだと思います。

人員に余裕があれば、一人の子どもに丁寧に関われる場面は増えます。

しかし、すべてを人員不足の問題にしてしまうことにも、私は違和感があります。

人が増えても、役割が整理されていなければうまく動けません。

職員同士で情報が共有されていなければ、同じ子どもに違う対応をしてしまうこともあります。

困っている職員がいても、お互いに声を掛けられなければフォローできません。

また、現実として、保育士を採用したくても思うように採用できない園もあります。

だからこそ、

「人が足りないから無理」

で終わらせるのではなく、

「今いる人員の中で、どうすればより良い保育ができるのか」

を考える必要があります。

同時に、運営する側も、

「今いる職員で何とかしてください」

で終わらせてはいけません。

「そもそも今の人員配置で、本当に現場に無理がないのか」

という視点を持つ必要があります。

私は、この両方を考えることが大切だと思っています。

今いる人員の中で見直せることもある

人員そのものをすぐに増やすことが難しくても、園の中で見直せることはあります。

例えば、

・時間帯ごとの職員配置を見直す
・子どもの動きに合わせて職員の立ち位置を変える
・クラス間でフォローできる時間をつくる
・保育士でなくても担える業務を整理する
・書類や準備に使っている時間を見直す
・職員同士の情報共有を簡潔にする
・一人の職員に負担が集中していないか確認する

こうした小さな見直しでも、現場の動きが変わることがあります。

例えば、人数としては足りていても、忙しい時間帯に必要な場所へ職員が配置されていなければ、現場では「人が足りない」と感じます。

反対に、子どもの動きや一日の流れに合わせて配置を調整することで、同じ人数でも動きやすくなることがあります。

単純な人数だけではなく、

「いつ、どこに、人が必要なのか」

まで見ることが大切です。

保育士に求められる専門性は高くなっている

現在の保育は、決して簡単ではありません。

子どもの気持ちに寄り添う。

人権を尊重する。

主体性を大切にする。

不適切な関わりを防ぐ。

安全を守る。

保護者と信頼関係を築く。

職員同士で連携する。

一人ひとりの発達を捉える。

これらを同時に行う必要があります。

「保育士なのだからできて当然」

と簡単に言えるものではないと思います。

むしろ、これだけ多くのことを考えながら保育するからこそ、保育という仕事には高い専門性があります。

だからこそ、何かうまくいかなかったときに、

「保育士の力量が足りない」

「もっと丁寧に関わって」

だけで終わらせることには注意が必要です。

もちろん、一人ひとりの保育者が専門性を高めていくことは必要です。

その一方で、

「その保育を実践できる環境になっているか」

という視点も同じように持つ必要があります。

園長・主任には「現場と運営をつなぐ役割」がある

園長や主任の役割は、単に、

「もっと頑張りましょう」

と職員を鼓舞することではありません。

現場の保育者が感じている負担や葛藤を受け止める。

必要であれば現場に入る。

人員配置を見直す。

業務そのものを整理する。

職員同士が相談できる環境をつくる。

そして同時に、

「子ども主体だから、何でも子どもの言う通りでいいのか」

「集団生活とのバランスをどう考えるのか」

「保護者からの要望をどこまで受け止めるのか」

「園として何を大切にするのか」

ということを職員と一緒に考えていく。

こうした対話も、園運営には欠かせないと思っています。

子ども主体の保育に「これが唯一の正解」というものはありません。

だからこそ、一人の保育者に判断を任せきるのではなく、園として考え続けられる環境をつくることが大切です。

子ども主体の保育は、保育者一人の頑張りでは実現できない

子ども主体の保育を実践するためには、保育者一人の努力だけでは限界があります。

制度としての配置基準。

園としての職員配置。

保育補助者などを含めた人的体制。

職員同士の連携。

園長・主任によるフォロー。

保護者との対話。

そして、一人ひとりの保育者の専門性。

これらが重なり合って、子ども主体の保育を支えていきます。

配置基準が改善されても、現場にはまだ難しさがあります。

だからこそ、

「基準を満たしているから大丈夫」

でも、

「人が足りないから無理」

でもなく、

「今の環境で、どうすれば子どもにとってより良い保育ができるのか」

を考え続けることが必要なのだと思います。

まとめ|子ども主体の保育と人員配置は切り離して考えられない

子ども主体の保育では、一人ひとりの子どもの思いや発達を捉え、その姿に合わせて環境や関わり方を考えていくことが求められます。

そのためには、保育者の専門性だけではなく、それを発揮できる人的環境も必要です。

配置基準を満たす。

必要な人員を確保する。

職員の配置や役割を工夫する。

職員同士で情報を共有する。

困ったときにフォローできる関係をつくる。

そして、園長や主任が現場の状況を把握する。

どれか一つだけで解決する問題ではありません。

子ども主体の保育を、

「もっと子どもに寄り添いましょう」

という保育者個人への要求だけで終わらせないことが大切だと思います。

子どもに丁寧に向き合うことを求めるのであれば、その保育を実践できる環境についても一緒に考える。

子どもを中心に、保育者、主任、園長、運営側、そして保護者が、それぞれの立場から考え、対話していく。

その積み重ねが、子ども主体の保育を「理想」で終わらせず、日々の保育の中で実現していくことにつながるのではないでしょうか。

【内部リンク:子どもの主体性とは?保育者が「待つ」ことの意味】

【内部リンク:今求められている「保育の質」とは?】

【内部リンク:保育園の園内研修ネタ30選】