保育における「人的環境」とは、保育者や友達など、子どもの周りにいる人と、その人たちとの関係によってつくられる環境のことです。
保育環境というと、玩具や絵本、保育室のレイアウトなどを思い浮かべる方も多いと思います。
もちろん、こうした物的環境はとても大切です。
ただ、子どもにとっては、周りにいる「人」も同じくらい大きな環境になります。
誰がそばにいるのか。
どんな表情で関わるのか。
困ったときに助けてもらえるのか。
自分の気持ちを受け止めてもらえるのか。
そして、保育者同士がどのようにつながっているのか。
こうした一つひとつが、子どもの安心や育ちにつながっています。
今回は、保育における人的環境とは何か、具体例を交えながら、子ども主体の保育や保育の質との関係まで考えていきます。
この記事でわかること
・保育における人的環境の意味
・人的環境の具体例
・保育者自身が環境になるという考え方
・職員同士の関係が子どもに与える影響
・配置基準と人的環境の違い
・子ども主体の保育につなげるための考え方
保育における人的環境とは
人的環境とは、簡単に言えば、
「子どもの周りにいる人と、その人たちとの関係によってつくられる環境」
のことです。
保育園で考えると、
・保育士
・主任
・園長
・看護師
・栄養士
・調理員
・保育補助者
・友達
などが人的環境に含まれます。
大切なのは、単に「人がいる」ということではありません。
その人が子どもとどう関わるのか。
職員同士がどのようにつながっているのか。
子どもの情報を共有できているのか。
必要なときに助け合えるのか。
こうした関係性まで含めて、人的環境だと考える必要があります。
人的環境の具体例
保育における人的環境の具体例には、次のようなものがあります。
・保育者が子どもの気持ちを受け止める関わり
・子ども同士が遊びや生活を通して関わること
・保育者同士が子どもの姿を共有し、連携すること
・園長や主任、看護師、栄養士などがそれぞれの専門性を生かして関わること
・困ったときに子どもや保育者が安心して助けを求められる関係
このように、人的環境には「誰がいるか」だけでなく、「その人たちがどのように関わっているか」も含まれます。
例えば、同じ保育室に保育士が2人いたとしても、人的環境が同じとは限りません。
一方のクラスでは、
「私はこの子を見ます」
「私は全体を見ます」
と役割を確認できている。
子どもの姿を共有できている。
困ったときにはすぐに声を掛け合える。
必要に応じて自然にフォローに入れる。
このような状態であれば、子どもにとっても安心しやすい環境になります。
反対に、
「自分の担当だけを見る」
「困っていても相談しづらい」
「職員同士で考え方が共有されていない」
という状態であれば、同じ人数が配置されていても、子どもへの関わり方は変わってきます。
つまり、人的環境を見るときには、
「何人いるか」
だけではなく、
「どのような人が、どのようにつながっているか」
まで考えることが大切です。
人的環境は「人数」だけでは決まらない
保育園では、子どもの年齢などに応じて職員配置の基準があります。
配置基準は、保育の安全や質を支えるうえで欠かせません。
ただし、
「配置基準を満たしている=人的環境が十分」
とは限りません。
同じ人数の子どもを保育していても、その日の子どもの様子によって必要な援助は変わります。
落ち着いて遊べている日もあれば、トラブルが続く日もあります。
個別に配慮が必要な子どもがいることもあります。
生活の中で、一人ひとりの思いを丁寧に受け止める必要がある場面もあります。
また、人員に余裕があったとしても、職員同士の連携が取れていなければ、その力を十分に生かすことはできません。
職員同士で保育の方向性が共有されている。
それぞれの役割が分かっている。
困ったときに相談できる。
必要なときに助け合える。
こうした状態があって、初めて「人」が環境として機能していきます。
だからこそ、
「基準上、必要な人数がいるか」
ということと、
「一人ひとりの子どもに丁寧に関われる状態になっているか」
は、分けて考える必要があります。
配置基準は大切です。
そのうえで、実際の子どもの姿や保育の状況に合わせて、人の動き方や役割を考えていくことが人的環境づくりにつながります。
保育士の年齢別配置基準や人数の考え方については、「認可保育園の保育士配置基準とは?」の記事で詳しく紹介しています。
保育者自身も子どもにとっての人的環境
人的環境を考えるうえで、忘れてはいけないのが、
「保育者自身も子どもにとっての環境である」
ということです。
保育者の表情。
声の大きさ。
話し方。
子どもを見る視線。
子どもへの近づき方。
こうしたことは、すべて子どもに伝わります。
保育者がいつも忙しそうにしていると、子どもが話しかけることを遠慮することもあるかもしれません。
反対に、保育者が落ち着いて子どもと向き合っていれば、子どもも安心して自分の気持ちを表現しやすくなります。
例えば、子どもが何かを伝えようとしているとき。
すぐに答えを返すのか。
少し待って、子どもの言葉を聞くのか。
同じ場面でも、保育者の関わり方によって子どもの経験は変わります。
子どもにとって、保育者は単に「保育をしてくれる人」ではありません。
毎日長い時間を一緒に過ごす、大きな環境の一部です。
保育者同士の関係も子どもに影響する
人的環境というと、子どもと保育者の関係だけを考えがちです。
しかし、保育者同士の関係も子どもに影響します。
例えば、
「この子、今日は少し疲れているみたいです」
「昨日こんなことがありました」
「最近この遊びにすごく興味があります」
と、職員同士が自然に共有できている園。
一方で、
「担任しかその子のことを知らない」
「相談しづらい」
「困っていても声を掛けられない」
という園。
子どもにとって、どちらが安心できる環境かは想像しやすいと思います。
情報共有ができていれば、担任がその場にいなくても、別の職員が子どもの気持ちを理解しやすくなります。
一人の保育者だけが抱え込まず、園全体で子どもを見ることもできます。
保育は、一人で完結する仕事ではありません。
だからこそ、
「ちょっと相談していいですか」
と言える関係が必要です。
「この子への関わり方、どう思いますか」
「今日は少し大変なので、少し見てもらえますか」
「自分の保育について意見を聞きたいです」
そんな言葉を安心して出せることも、良い人的環境の一つです。
そして、相談された側も、
「そんなことも分からないの?」
ではなく、
「一緒に考えよう」
と受け止める。
こうした関係があることで、保育者の心理的な負担も変わります。
結果として、子どもに向き合う余裕も生まれます。
関連記事:
「一人で抱え込んでいない?『保育士もインクルーシブ』で考える、チームで支える保育」
子ども主体の保育には「余白」が必要
子ども主体の保育を考えるとき、私は「余白」という言葉がとても大切だと感じています。
例えば、子どもが、
「これやりたい」
と言ったとき。
すぐに次の活動へ進むのではなく、少し話を聞ける余白がある。
子ども同士のトラブルが起きたとき。
すぐに「やめなさい」と止めるだけでなく、子どもたちの表情ややり取りを見られる余白がある。
一人の子どもが困っているとき。
少し立ち止まって、
「この子は今、何に困っているのだろう」
と考えられる余白がある。
こうした時間があることで、保育者は子どもの姿を丁寧に見ることができます。
反対に、常に時間に追われていると、
「早くして」
「次はこれ」
「みんな一緒に」
という進行になりやすくなります。
もちろん、集団生活では一定の流れも必要です。
ただ、余白のない状態が続けば、子どもの思いや主体性を受け止めることは難しくなります。
人的環境を整えることは、この「余白」をつくることにもつながります。
園長・主任が人的環境を整える
人的環境は、自然に良くなっていくものではありません。
園長や主任が意識的に整えていくことも必要です。
例えば、
・職員同士が話せる時間をつくる
・情報共有の方法を整理する
・役割を明確にする
・必要なときにはフォローに入る
・職員の悩みを聞く
・保育について話し合う時間をつくる
こうした働きかけの積み重ねで、職員同士の関係は少しずつ変わっていきます。
園長や主任の役割は、単に人を配置することではありません。
「その人が力を発揮できる環境をつくること」
も大切な仕事だと思います。
例えば、人手が足りない場面で、
「もっと頑張って」
と伝えるだけでは状況は変わりません。
どこに負担が集中しているのか。
役割を変えられないか。
他の職員がフォローできないか。
業務そのものを見直せないか。
人を見るだけではなく、人を取り巻く環境まで見ることが管理者には求められます。
保育補助者など幅広い人材の力を生かす
現在の保育現場では、保育士だけではなく、保育補助者などさまざまな人材が園運営を支えています。
大切なのは、それぞれの役割を整理し、保育士が専門性を発揮しやすい環境をつくることです。
例えば、
・環境整備
・準備や片付け
・安全確認
・遊びの見守り
など、園の状況に合わせて役割を整理することで、保育士が子ども一人ひとりを見る時間を確保しやすくなる場合があります。
もちろん、資格や制度上の役割を踏まえることは必要です。
そのうえで、
「どの人が、どの役割を担えば、子どもにとってより良い環境になるのか」
という視点で考えることが大切です。
人的環境を整えることは子ども主体の保育につながる
人的環境を整えることは、保育者を楽にするためだけのものではありません。
保育者に余裕がある。
すると、子どもの姿をよく見ることができる。
子どもの小さな変化に気付ける。
必要なときに立ち止まれる。
子どもの思いを受け止められる。
その結果、子どもが安心して過ごせる。
この循環が大切です。
子ども主体の保育というと、
「保育者がどう関わるか」
に注目しがちです。
もちろん、それも大切です。
ただ、その保育者自身がどのような環境で働いているかも見なければなりません。
一人で抱え込んでいないか。
相談できるか。
必要なときに助けてもらえるか。
子どもの情報を共有できているか。
園として保育の方向性を共有できているか。
必要な人員が確保されているか。
こうした土台があってこそ、子どもの思いを丁寧に受け止める保育がしやすくなります。
人的環境を整えることは、保育の質を高めること
保育の質を高めようとすると、
「新しい活動を取り入れよう」
「もっと良い教材を用意しよう」
と考えることがあります。
もちろん、それも一つの方法です。
ただ、その前に一度、
「今、子どもの周りにいる大人は、安心して子どもと向き合えているだろうか」
と考えてみてほしいと思います。
子ども主体の保育。
保育の質。
職員の専門性。
保護者との信頼関係。
これらは別々のものではありません。
すべて、人と人との関係の中でつながっています。
子どもを変えようとする前に、環境を見直す。
保育者を責める前に、保育者を取り巻く環境を見る。
「もっと頑張って」と言う前に、
「どうすればこの人が力を発揮できるだろう」
と考える。
そうした視点が、子ども主体の保育を支える人的環境づくりにつながっていくのだと思います。
まとめ|人的環境は「人」と「人との関係」でつくられる
保育における人的環境とは、子どもの周りにいる人と、その人たちとの関係によってつくられる環境のことです。
大切なのは、単に職員の人数を見ることではありません。
・子どもとどのように関わっているか
・職員同士が連携できているか
・必要なときに助け合えるか
・相談しやすい環境になっているか
・保育者自身が安心して働けているか
こうしたことまで含めて考える必要があります。
物的環境を整えることと同じように、人的環境を整えることも保育の大切な仕事です。
そして、その環境を整えることが、子ども一人ひとりを丁寧に見ることにつながり、子ども主体の保育や保育の質を支えていきます。
保育室の玩具やレイアウトを見るように、
「今、この園の人の環境はどうだろう」
と一度振り返ってみる。
そこから見えてくることも、きっとあると思います。
【内部リンク:「子ども主体の保育」と人員配置の難しさ】
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